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3パターンで理解するOpenStack活用事例、先行ユーザーの着眼点とは?エンタープライズのためのOpenStack検討ガイド【第4回】

OpenStackを活用しているユーザー事例を3つのパターンで紹介する。先行ユーザーはOpenStackのどこに魅力を感じ、採用に至ったのだろうか。考察を交え解説したい。

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 いよいよこの連載も後半に入った。前半の概要、動向編に続き、後半では事例、設計、運用といった実践的な内容で「OpenStack」を紹介していく。今回は、OpenStackを既に活用しているユーザーの事例をまとめる。先行ユーザーはOpenStackのどこに魅力を感じ、採用に至ったのだろうか。考察を交え解説したい。

OpenStackの導入パターンは大きく3つ

 OpenStackは2010年に産声を上げたプロジェクトで、当記事の執筆時点で約4年の歴史がある。はじめの2〜3年は研究機関やサービスプロバイダーなど、先進技術に積極的なユーザーの事例が目立ち、「ひとごと」と感じられがちだった。しかし、事例の増加ペースは2014年から加速しており、金融、製造、小売り、エンターテイメントなど、さまざまな業界の事例が出てきた。

 そして、今回の記事をまとめるに当たりOpenStackの事例を幅広に調査したわけであるが、筆者はある仮説に至った。それは、ユーザー事例は動機や背景によって、3つにパターン化できるのではないかということである。

 その3つとは、「仮想化の先へ」「『Amazon Web Services』(AWS)からの移行」「オープンソースの魅力」である。

パターン1:仮想化の先へ

 社内に仮想化基盤を既に確立していたユーザーが、クラウドの特徴であるアジリティ(俊敏性)を求め、OpenStackによるクラウド化に挑戦するパターンである。オンライン決済で著名な米PayPalが代表的な例だ。

 PayPalは大規模なVMwareユーザーであり、2012年時点でフロントエンド基盤の90%は「VMware vSphere」によって仮想化されていた。だが、2013年にOpenStackによるクラウド化を決断する。その背景には、アプリケーション開発者向けにセルフサービス環境を提供し、スピード感をもってアプリケーション開発と配備を行えるようにすべきという思いがあったそうだ。仮想化による統合効果に満足せず、その先を目指した例である。

 ちなみにPayPalはそれまでのvSphere基盤をすぐ廃棄するのではなく、オープンソースのハイパーバイザーであるKVMのプールと、vSphereのプールをそれぞれOpenStackで管理、平行運用するというアプローチをとった。OpenStackは仮想化基盤としてのvSphereと比較されることが多いが、実はレイヤーが異なり、比較対象としてふさわしくない。OpenStackにとってvSphereは、あくまで管理できる仮想化技術の1つだからだ。

 もちろん、OpenStack化に際し、オープンソース化を徹底すべくKVMが選択されるケースは多い。だが、繰り返しになるが、OpenStackとvSphereはレイヤーが異なること、OpenStackにとってvSphereは仮想化技術の1つの選択肢であることをご理解いただきたい。決して“VMwareのオープンソース版”ではない。

パターン2:AWSからの移行

 2つ目のパターンは、AWSからの移行だ。OpenStackはAWSの影響を強く受けているため、類似の機能が多い。よって、移行候補として検討されやすい。

 API互換性が限定的であるため、ストレートに移行できるわけではないが、アプリケーションの作り方、考え方の基本的な部分は似ているため、得たノウハウは生かせる。

 では、AWSから移行する動機は何だろうか。典型的な動機は、「自分たちでAWSのような基盤を作りたい」という欲求だろう。従量課金ではなく、コストを予測したい。他ユーザーの影響を受けず、性能をコントロールしたい。IT基盤の技術力を失いたくない。規制やコンプライアンス、エンドユーザーへの説明責任など、作りたいという欲求の背景はさまざまである。

 AWSからOpenStackの移行事例としては、米Hewlett-Packard(HP)とSony Computer Entertainment America(SCEA)が有名だ。

 HPの事業部門はアジリティが要求されるシステムでAWSを使っていたが、OpenStackの成熟、また、ベンダーとしての戦略に合わせ、AWSで稼働していた20ほどのシステムを、社内のOpenStack基盤およびHPのパブリッククラウドへ移行している。OpenStackを標準技術としたハイブリッド環境を狙ったわけだ。また、ユーザーとして得た経験を、ベンダーとして生かそうという背景もある。

 SCEAは「プレイステーション 4」のサービス基盤としてOpenStackプライベートクラウドを活用している。AWSをはじめ、パブリッククラウドは中身が見えないブラックボックスである。性能をはじめさまざまなリスクを、きめ細かくコントロールする必要があるシステムでは、パブリッククラウドは使いにくいと考えたようだ。そこで、OpenStackでプライベートクラウドを構築する判断をした。

パターン3:オープンソースの魅力

 最後は、オープンソースであることが決め手となったパターンだ。

 「Yahoo! JAPAN」は2014年時点で5万仮想マシン、10PバイトのデータをOpenStackで管理している大規模ユーザーである。Yahoo! JAPANはOpenStack採用前、独自の管理基盤を自ら構築していた。しかし、独自仕様であることから、その運用を支援するさまざまなソフトウェア、ツールが対応していないという課題があった。

 近年、運用支援で役立つツール、特にオープンソースのツールは増えてきており、その活用可否は生産性に大きく影響する。そこで、オープンソースクラウドソフトのスタンダードになりつつあり、それに合わせて周辺のエコシステムが充実してきたとして、OpenStackの採用を決定している。

 小売り大手の米Walmartも、オープンソースであることをOpenStackの採用理由として挙げている。オープンソースであることで、単一のベンダーへ過度に依存せず、自ら技術をコントロールすることもできる。実店舗とEコマースの融合にチャレンジしている同社を支えるIT基盤は、規模、質ともに大きい変化の中にあるという。変化に対応するための武器がオープンソース、OpenStackということだ。

 なお、全ての事例は公開情報に基づき、筆者の理解で解説を行っている。もし事実と異なる場合、その責は筆者にあることをお断りしておく。

日本のユーザー事例を世界に

 OpenStackコミュニティーは年に2回、世界中の開発者を集めるイベント「OpenStack Summit」を実施している。初めの2年間は北米の都市で開催していたが、2013年秋の香港サミットから、秋は北米以外、春は北米、というローテーションとなった。筆者は2013年秋の香港、2014年秋のパリに参加したが、開催地域の事例紹介はやはり盛り上がる。

 IT全般にいえることではあるが、OpenStackにおいても、ITへの投資意欲が旺盛な北米ユーザーの事例が多い。2014年までは、やはり北米ユーザーの事例が目立った。OpenStackが生まれたのは北米なので、当然ではある。

 しかし、Yahoo! Japanをはじめ、日本のユーザー事例も増えてきている。2015年秋のサミットは東京開催だ。日本のユーザー事例に期待したい。


 第4回は、OpenStackのユーザー事例を動機別、背景別に解説した。読者の状況に似た事例はあっただろうか。ぜひご自身の現状、将来のビジョンと照らし合わせ、OpenStackが貢献できそうかを検討してほしい。

 次回からはITアーキテクト向けに、設計や運用のポイントについて取り上げる予定である。ご期待いただきたい。

真壁 徹(まかべ とおる)

米Hewlett-Packard Company クラウドチーフテクノロジスト

 HPのクラウドの方向性、最先端の開発状況を日本のお客さまにお伝えし、かつ日本のお客さまの声を米国HP本社にフィードバックする役割を担う。アーキテクトとして設計支援も担当。

 公共分野のソフトウェアエンジニア、通信業界担当のプリセールスエンジニアを経て現職。趣味はビール。


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