ユーザーもパートナーも心配するDockerの「俺様」っぷり:速すぎる成長スピードの弊害か
IT関係者の多くが、Dockerの“度を越した”躍進が、やがて同社の信用損失につながるのではないかと危惧している。その理由は、彼らが中核事業を超えたエンタープライズ市場への進出しようとしているからだ。
Linux対応のコンテナ管理ソフトウェアで最も普及しているDockerだが、今、その先行きを危ぶむ声が増えている。Dockerは、2016年3月で起業3年目を迎えたばかりだが、その非常に短期間で多くの業績を上げてきた。
プルリクエストは2億件に達したほか、ベンチャー企業支援と数社の買収に1億6千万ドルを投資している。Dockerは開発者が積極的に採用することで、ITシステムの運用プラットフォームとして急速に広まっている。
だが、その成功に反し、同社の事業展開は分不相応で時期尚早だという懸念が広がっている。その懸念が潜在的なユーザーやパートナーを遠ざける原因にもなっている。
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Dockerが提供する製品の根幹となるのは、仮想環境となるコンテナの構築および仮想環境におけるアプリケーション実行に使用する「Docker Engine」だ。その他、
- イメージ配布に使用する「Docker Registry」
- マルチコンテナアプリケーションを定義する「Docker Compose」
- ホストのクラスタリングとスケジューリングを行う「Docker Swarm」
- コンテナを自動でプロビジョニングする「Docker Machine」
これらも、Dockerが提供する製品ラインアップだ。さらに「Docker Hub」および「Docker Trusted Registry」というクラウドレジストリサービスを提供しているほか、新しいソリューションとして「Docker Datacenter」「Docker Cloud」「Universal Control Plane」も開発している。
「多岐にわたる製品群を市場に素早く投入することがDockerの戦略の1つだ」と語るのは、Dockerで最高執行責任者(COO)のスコット・ジョンストン氏だ。
「当社の構想では、まずプラットフォームを広く普及した後に、しばらくしてから強度を高めたスタックを顧客に提供する」(ジョンストン氏)
Dockerが開発者だけでなくIT業界全体を取り込みたいのなら、これは適切な考えだと評価する業界関係者もいる。Fixate IOでDevOpsアナリストを務めるクリス・ライリー氏は次のような意見を述べている。「これはDockerにとってまさに必要なことだ。Dockerは、開発者が自分たちの都合のよいように環境を構築してしまう傾向があることと、それによる(経営層が決定するトップダウン式ではなく開発者など現場の判断による)ボトムアップ式によって採用することが多い問題に非常に苦しんでいる」と述べている。
Dockerのオープンソース製品を無償で使用したことのある開発者は、Dockerは、自分たちが提供している製品で導入しているテクノロジーを企業全体で採用するために必要な金銭的リスクを十分には負っていないという。Dockerが長期的な成功を収めるためには、次のステップとしてそのリスクが必要になるというのだ。
ただし、製品に課金する初期の試みは完全に失敗している。Docker Cloudの有償提供に対する既存のユーザーベースの反応がその証拠だ。「スタートアップの多くは、収益に見合わない過剰なサービスを提供して不利益を被っている。そのため、その副産物を予測して対処しなければならない」(ライリー氏)
速すぎるスピードに広げすぎる展開
IT関係者の多くは、Dockerが抱える深刻な問題として事業を進めるスピードが速すぎることも挙げている。クラスタ管理システムのDocker Swarmを評価したユーザーは、Apacheの「Mesos」やGoogleの「Kubernetes」に大きく後れを取っているという意見を述べている。
EMC傘下でオールフラッシュストレージプロバイダーのXtremIOで最高技術責任者(CTO)を務めるイツィク・ライヒ氏は、ユーザーのメガバンクにおいてコンテナ化した環境で動くシステムについて、概念実証をまとめた結果、XtremIOのスケジューリングとオーケストレーションは、Docker SwarmではなくMesosphereの「DCOS」(Datacenter Operating System)と「Marathon」を使用していたと話す。「求められているのは有効なソリューションだった。Docker Swarmは拡張性の点で適切ではない」(ライヒ氏)
また、非常に多くの分野に手を出すことでDockerが疲弊すると語る関係者もいる。ベアメタルのクラウドプロバイダPacketのユーザーは、コンテナ仮想化のヘビーユーザーだ。同社の共同創設者でシニアバイスプレジデントを務めるアーロン・ウェルチ氏は、Dockerについて次のように語る。「多くのプロジェクトが惰性で進んでいる。プルリクエストの数は減り、チームの反応にかつての速さはない」
Dockerが進めている中核製品の開発方針もユーザーの期待値に達していない。多国籍メディア企業でDevOps担当バイスプレジデントを務めるパウリ・コント氏は、「Dockerfileなどには機能を追加して、それが部分的に一貫性を損なう可能性もある」と指摘している。コント氏はDockerを熱烈に支持するが、その一方で「今のDockerは、中核製品のレベルアップではなく、中核事業の外に事業を広げることに注力している」と話す。「DockerがDocker Datacenterなどの製品でエンタープライズ市場を攻めているのは、ビジネスの点では理にかなっている。だが、多角的に素早く成長して大成功を収めている企業はあまり多くない」(ウェルチ氏)
危機感を感じているパートナー
ホスト型監視ソフトウェアメーカーのLogicMonitorは、自社のシステムでDockerをサポートしているが、同社でチーフネットワークアーキテクトを務めるジェフ・ベヘル氏は次のように語る。「Dockerでは、新しい製品やバージョンの急激な投入が、パートナーやユーザーに問題を引き起こしている。Dockerのバージョン1.8とバージョン1.10の間に下位互換性がないのは大きな問題だ」
Dockerのパートナーは、同社からの圧力を感じる状況が数カ月前から続いている。PacketのCEO ザカリー・スミス氏は、2015年11月の時点で次のように発言している。「私が圧力を感じ始めたのはスペインのバルセロナであったDockerCon Europe 2015からだ。Dockerは出席者全員にKubernetesの話は出さないでほしいと強調していたが、個人的にはおかしな話だと思った」
このDockerの態度は、同社と関係のあるベンチャーキャピタルにも悪影響を与えているとスミス氏は語る。例えば、Dockerは、VMwareの「VSAN」のようなソフトウェア定義のストレージサービスをリリースするという臆測が飛び交っている。その場合は、Rancher LabsやPortworxなどのコンテナストレージのスタートアップと競合することになる。こうなると、ベンチャーキャピタルは、Dockerが追随できるような製品を持つ企業に投資するのを恐れるようになるだろう。
この分野に投資しているベンチャーキャピタルは、Google、Mesosphere、HashiCorpと手を組むようスタートアップに勧告している。「KubernetesやGoogleのGoogle Cloud Platformの未来が明るいのは間違いない」とスミス氏は語る。それは、これらのサービスのエコシステムの方向性が分かりやすいからだ。
なお、Dockerに対して、この記事で紹介した問題点についてコメントを求めたが、2016年4月時点で詳しい回答はない。
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