ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略【第1回】
製薬企業のIT部門は販促活動の環境変化に備えよ――知っておくべき技術トレンド(1/3 ページ)
専門性の高い情報を扱い、医薬品の適正使用を促すサイクルを構築するMR(医薬情報担当者)の業務には、データ分析やデジタルマーケティング技術の活用が大きな効果をもたらす可能性がある。
連載について
本連載では「ライフサイエンス企業におけるITの現状と課題」をテーマに、ライフサイエンス企業の中でも特に製薬業界でのIT事情を解説する。初回の全体像の紹介に続き、「制約された環境下におけるプロモーション」「情報プラットフォーム」「CIO(最高情報責任者)やIT部門の役割と展望」と全4回の連載で各項目を解説する。
テクノロジーの急速かつ継続的な発展のために、企業のIT部門は自社に革新性と効率性を提供するというプレッシャーにさらされている。モバイル、クラウド、人工知能、その他の新しいテクノロジーの革新が、今や企業の新たな競争を引き起こしている。こうした中、IT部門には新たな専門知識とスキルが必要とされている。テクノロジーのイノベーションを効果的に活用するために、組織は戦略面、経営面の両方で変革が必須であり、同時に費用削減によって企業としての収益性も確保しなくてはならない。
ライフサイエンス業界の中心的存在である製薬企業は既に、新たなITの活用を模索し始めている。その一方でエレクトロニクス企業やITベンチャーは、圧倒的な技術力を武器にライフサイエンスという新しいマーケットに参入しつつある。世界でいち早く高齢社会に突入した日本で、その解決策をITに求めブルーオーシャン(未開拓の新たなマーケット)に多くの企業が飛び込んでいるようにも見受けられる。
本連載ではライフサイエンス業界の特徴や実情に触れながら、同業界のCIO(最高情報責任者)やIT部門が直面するチャレンジについて解説する。
医薬品の特殊性
ライフサイエンス業界の特殊性を語る上で、まずは製薬企業を中心に医薬品の処方後/処方前に分けて考えてみよう。病院/クリニックでの問診と薬の処方がわれわれの健康に直結していた時代(遠くない過去)において、医薬品の研究開発から製造販売を担う製薬企業は、圧倒的な存在感を持っていた。その理由には、一般消費財と医薬品との違いがある。医薬品の持つ医療上の品質、有効性、安全性に裏付けられた社会性や公共性から、医薬品は流通する「モノ」としての価値が評価されているだけでなく、高度に専門的な「情報」を合わせ持っているのだ。
医薬品医療機器等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の第68条の2にも、「医薬品の有効性および安全性に関する事項など、医薬品の適正な使用のために必要な情報の提供と収集が、医薬品の製造販売業者の責務である」と明記されている。製薬企業は、医師や薬剤師などの医療従事者にアプローチし、医薬品の有効性安全性に関する高度な専門「情報」を収集、伝達することを重要なミッションの1つとしている。つまり、一方的な情報提供にとどまらず、医薬品の適正使用のサイクル構築を目指している。医師が的確な判断の下、最適な薬剤を決定して調剤の指示をする。患者は医師・薬剤師から十分な説明を受けて薬を服用し、その後の経過観察で、効果や副作用を評価して、医師の処方にフィードバックする、というサイクルだ。
ドラッグストアなどで購入できるOTC(Over The Counter)医薬品とは異なり、医療用医薬品は医薬品医療機器等法により広告が制限されている。これも医薬品の適正使用のサイクルが機能することを第一義に考えたものだ。患者と医療従事者の信頼関係を損なうような不適切な情報提供や伝達行為を慎むようにと、日本製薬工業協会(製薬協、注1)が医療用医薬品のプロモーションの在り方と行動基準を定めた「医療用医薬品プロモーションコード」に明記されている。またエンドユーザーである一般消費者(患者や家族)は、一般的にはこれら高度な情報について医療従事者と同等のリテラシーを持たないため、処方の判断は医療従事者に委ねられることになる。
注1:1968年に設立された、研究開発志向型の製薬企業73社(2016年4月1日現在)が加盟する任意団体。
前述のように医薬品の持つ情報の非対称性から、医薬品処方後の世界は専門家が判断する世界であり、製薬企業や医療機器メーカー以外のプレイヤーが参入する余地はなかった。しかしながら、膨張する国民医療費の抑止策の1つとして、2008年にメタボリックシンドローム解消・予防による生活習慣病の予防が打ち出され、健康保険による特定検診の促進だけでなく、IT機器を活用した健康状態の「見える化」によるメタボリックシンドローム改善の取り組みが進んできた。
このような「健康状態を改善したい」「健康を維持したい」という医薬品処方以前の領域は「ウェルネス」といわれる。マーケットの広がりとともに、ウェルネスの領域では最新のIT機器(モバイルアプリ、ウェアラブルデバイスなど)の活用が加速している。もちろん同様の技術は医薬品処方後も視野に入れ、医療機器メーカー、製薬企業との協業が活発化している。企業がエンドユーザーである一般消費者と直接結び付いていることが最大の特徴である。エンドユーザーおよび患者の生体情報をリアルタイムで刻々と取得し、そのデータに基づいて適切なフィードバックをするビジネスモデルを考えた際に、このループに何らかの付加価値を与えられることが、企業のウェルネスマーケットへの参加条件となる。
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ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略
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