それでもヒトは機械との会話を求めている
音声認識の理想と限界、AmazonやGoogleの技術でも「魔法の呪文」には遠い?
「Amazon Echo」や「Google Home」、Appleの「Siri」のような音声認識はスマートホームIoTの構成要素として急速に定着している。だが音声認識の技術はまだまだ課題がある。
Amazonの「Amazon Echo」、Googleの「Google Home」、Appleの「Siri」のようなインタフェースによる音声認識はスマートホームIoTの構成要素として急速に定着している。「Alexa、寝室の電気を点けて」と言えばAmazon Echoが電気を点けてくれる(訳注:「Alexa」はAmazon Echoの音声認識機能の名称)。だが音声認識が、産業用機械の監視や制御を目的に設計されたIoTアーキテクチャの分野に進出する日は本当に来るのだろうか。2017年1月上旬に公開されたThe Economistの記事では次のように述べている。「音声認識を使用するのは呪文を唱えるようなものだ。宙に向かって2~3個の言葉を発すると、近くにあるデバイスがあなたの願いをかなえてくれる」
音声認識と自然言語処理
ほとんどの人が感じている通り、複数のマイク、ノイズキャンセリングテクノロジー、ブロードバンドインターネット接続を装備したAmazon Echoや同様のデバイスの、話し言葉に対する認識力は非常に高くなっている。完璧ではないものの、騒がしい環境でも大部分は正しく認識できる。特定の話者を理解するためにシステムの訓練を行った後でも依然として精度が低くて、音声インタフェースが基本的に使いものにならなかった時代と比較すると、これは大きな変化である。
ただし、音声認識には前述の魔法使いの呪文によく似た欠点もある。それは、音声認識が少し間違って音声を理解することによって、予期しない結果をもたらし得ることだ。これは、音声認識の向上を支える機械学習とそれに関連するコンピュータサイエンスの進歩が、一連の言葉の意図や意味の理解(自然言語処理)の広範な向上に匹敵するには至っていないことが理由だ。
音声認識は大きな進歩を遂げている。米国のクイズ番組「Jeopardy!」でIBMの「Watson」が健闘したことを考えてみてほしい。とは言うものの、音声認識を複雑な場面で用いようと試みたことがある人なら、受け答えが筋書きから逸れたことに起因する混乱を経験しているだろう。
分かりやすさ
とはいえ音声認識に対して、筋書き通りに応答させなければならない場面はほとんどない。その理由の1つは、音声はあまり分かりやすいインタフェースではないということだ。音声は、許容される操作についてユーザーを明示的に導くメニュー項目や他の画面に表示されるメッセージを備えたグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)ではなく、点滅するカーソルが表示されるコマンドラインに似ている。実際のところ、音声は、ほぼ間違いなくコマンドラインより劣る。コマンドラインでは、少なくともすぐにヘルプ画面を確認できる。私たちが話すときには、特定の単語が理解されているかどうか、頼みごとの一部が理解されているかどうかを判断するのに、簡潔で即時に返ってくる相手の反応を頼りにしている。一般的にコンピュータは、文脈から意味を導き出したり、特定の形式や筋書きと一致しない自由形式の会話を解析したりするのが極めて不得手だ。
会話システムに向けて
前述のように音声認識には不得手もあるが、音声認識の主な用途が単純な定型コマンドであれば、特に問題にはならない。恐らく、標準の運用データの概要を入手するためか、建物のドアなどのシステムでハンズフリー制御のために音声を使っているだろう。
ただし音声認識には、企業と個人の両方を対象とする広範なタスクを処理できるバーチャルアシスタントへと進化することが期待されている。センサーとオンライン知識ベースを併用して、長時間にわたって修理技師と言葉でやりとりをするバーチャル旅行代理店の担当者や診断システムを想像してみてほしい。このような応用事例には、コンテキストを理解して自然な会話を交わせるシステムが必要になる。
不自然なデモケースから脱却して、仮想アシスタントが本当に有益なものになるには、非常に高度なものでなければならない。「……するには8を押してください」といったメニューに従って操作する電話の音声案内にいらいらした経験が誰しもあるだろう。頻繁に聞き間違いをしたり、いつもユーザーに言い直しを求めたりするバーチャルアシスタントでは役に立たないも同然だ。
例えば人間であれば、スキルや経験が中程度の担当者でも、旅行の予約に関する一般的な指示に従って行動することができる。この担当者が全ての最終決定を下すことはないかもしれない。だが、標準的な旅行者の行動については十分な知識があるため、適切なオプションを提案したり、「レンタカーは必要ですか」などの妥当な質問を追加でしたりすることはできる。彼らは情報のある場所を把握しているか見つけることが可能で、互換性のない各種予約システムを操作することもできる。つまり人間の担当者ならば、他の都市への旅行に付随する状況をある程度理解しており、会話を通して理解を深めることができる。さらに、特定の顧客を担当している担当者であれば、時間の経過とともに顧客の好みや事情をさらに詳しく知ることが可能である。
マサチューセッツ工科大学(MIT)でシニアリサーチサイエンティストとして働くジム・グラス氏は、2016年、MIT Technology Reviewに「会話は社会の中で転換期を迎えている。私の経験では、デバイスと会話できる場合、人は遠隔制御よりもデバイスとの会話そのものを望む」と語っている。音声認識は改善され、単純なコマンドを与えると、そのコマンドに対して応答を受け取ることができる信頼性の高い方法へと進化している。
対話型の複雑なタスクの一環として音声が使用される兆候は見られるものの、実用に耐え得るレベルとはいえない。特定の分野が進歩すると、広範な問題が実際よりも解決されているという錯覚を起こすことがある。人工知能や機械学習のほぼ全期間について同じことがいえる。音声の分野に関しては、適切なハードウェアがあれば、音声認識は非常に良くなっている。だが、実世界の状況をよく理解する会話型システムが進歩したとは、とても言い難いのが実情である。
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