「サービタイゼーション」の4段階とは? 製造業“コト売り化”の手順:製造業の競争力強化をもたらす「サービタイゼーション」【前編】
単なる製品販売だけではない「サービタイゼーション」へのビジネスモデル移行は、製造業にとって逆境に適応する回復力と収益力の強化に役立つ可能性がある。どのように移行を進めるべきなのか。
製造業の間では、生産と販売という従来型のビジネスモデルから「サービタイゼーション」に移行する動きが広がっている。サービタイゼーションは製品だけでなく、製品が生み出す価値やサービスも販売するビジネスモデルのことだ。
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サービタイゼーションへの移行は簡単ではない。製品の設計、開発、販売の方法を見直し、製品に関連するサービスをどう収益化させるかを考える必要がある。それを乗り越えてサービタイゼーションに移行できれば「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で発生した経済的逆境に打ち勝つレジリエンス(逆境や困難に適応する耐久力や回復力)を強化できる可能性がある」と、調査会社IDCのジョルジオ・ネブローニ氏は語る。
IDCで垂直戦略と新興テクノロジー担当アソシエイトバイスプレジデントを務めるネブローニ氏は、同社の調査報告書「IDC Servitization Barometer: Charting Your Path to New Revenue Streams」の執筆者の1人だ。ERP(統合業務)ベンダーのIFS(Industrial and Financial Systems)がスポンサーとなったこの調査報告書は、製造業421社を対象にサービタイゼーションへの移行成熟度を調査した結果をまとめた。
ネブローニ氏によると、製造業がサービタイゼーションに移行する流れはこうだ。まず既存の収益源に加えて、従量課金制などのサービタイゼーションの要素を含む新しい収益源を用意する。次に、その新しい収益源に基づいて新たなビジネスモデルを構築する。
サービタイゼーションへの移行「4つの段階」
調査報告書によると、サービタイゼーションへの移行は大きく次の4段階に分けられる。
- 第1段階「分裂」
- 社内のデータが分断されており、プロセスもそれぞれに分かれていて、ほとんどが手作業の状態。
- 第2段階「サイドカー」
- バックオフィスシステムとフロントオフィスシステムを標準化したものの、両者は分離している状態。
- 第3段階「結合」
- バックエンドシステムとフロントエンドシステムが双方向に連携し、IoT(モノのインターネット)センサーなどの高度な技術でリアルタイムデータをシステムに提供できる状態。
- 第4段階「ボーダーレス」
- 社外でプロセスを開始・終了でき、顧客やパートナー、競合他社を結ぶバリューチェーンを実現した状態。
ネブローニ氏は、第4段階に至ると移行は「至福」(Nirvana)の境地に達し、完全なサービタイゼーションが実現するという。第4段階では、さまざまな要素をまとめたバリューチェーンが完成し、IoTセンサーやAI(人工知能)技術といった高度な技術を導入することになる。「このバリューチェーンがエコシステムの役割を果たす」と同氏は説明する。
企業は単独で仕事をするわけではなく、社内外のパートナーにデータを提供する。そうすることにより、そのデータを収益化するとともに、新しいビジネスモデルを構築できる。「それが、誰もが目指す至福の境地だ」(ネブローニ氏)
報告書によると、大多数の企業がサービタイゼーションへの移行を進めている。その多くは第2段階(49%)か第3段階(34%)であり、第4段階に到達している企業は極めて少ない(3%)。企業がサービタイゼーションへの移行を進める動機は「サービタイゼーションがもたらす売り上げ向上と収益性拡大、COVID-19がもたらしたような経済的難局に対するレジリエンスの強化にある」とネブローニ氏は語る。
サービタイゼーションは、サービスを安定した収益源にするだけでなく、サプライチェーンの途絶のような事態が発生しても、プロセスの容易な変更を可能にする利点がある。製品の製造とエンドユーザーへの販売がメインのビジネスモデルでは、サプライチェーンや需要の途絶が発生したとき、安定した収益源に十分なバッファー(緩衝)がないために非常に不安定な状態になる。フロントエンドからバックエンドへの情報が連携していない場合も問題が生じる。
後編は、第4段階に到達するために乗り越えなければならない課題を解説する。
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