GPUのように使える「演算する」ストレージを目指して:コンピュテーショナルストレージ動向【前編】
コンピュテーショナルストレージの動向を概観するとともに、コンピュテーショナルストレージ導入企業がNGD Systems製品を導入した理由を紹介する。
ITにおける最大のボトルネックの一つがI/Oだ。ボトルネックはメモリ帯域幅、ネットワーク帯域幅、高解像度画面のリフレッシュレートなどさまざまだが、全体のパフォーマンスを制限するのはCPUがデータを外部デバイスにコピーする速度だ。
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ストレージ内でのデータ処理の必要性
I/Oによる待ち時間を減らすために、データを処理対象にできるだけ近づけることは理にかなっている。メモリのように扱えるストレージをコンピューティング機能の近くに移動するアーキテクチャもある。逆に、ストレージの近くにコンピューティング機能を移動する方が合理的な場合もある。
データ量が増えるにつれ、タスクの処理速度を上げるためにストレージをGPUのように扱えないかというアイデアが生まれた。これがコンピュテーショナルストレージだ。
2021年初頭、英エディンバラ大学のアントニオ・バーバレース氏(Institute for Computing Systems Architectureの上級講師)はMicrosoft Researchと共同執筆した論文「Computational storage: where are we today?」を発表した。
訳注:バーバレース氏へのインタビュー記事「コンピュテーショナルストレージに移行するには何が必要なのか」も参照。
同氏は「ストレージに何ができるか」と問い掛け、次のように補足している。「巨大なデータを処理するため、ストレージからメインメモリにコピーする。それにはかなりの時間を要する」
ストレージとメインメモリ間のI/Oのボトルネックを回避するには、ストレージでデータベースクエリを実行する方が有効なケースもある。
Hewlett Packard Enterprise(HPE)のマット・アームストロング=バーンズ氏(CTO:最高技術責任者)は、ストレージコントローラーで実行しているタスクは既にあると言う。「重複排除、圧縮/展開などのタスクはディスクアレイで処理されている」
このような使い方はコンピュテーショナルストレージには分類されていないが、ストレージコントローラーがスマートさを増していくことを示している。
ハードウェアアクセラレーション
バーバレース氏は、コンピュテーショナルストレージにもっと高次元の展望を持っている。コンピュテーショナルストレージはデータに関するシンプルな操作を実行し、CPUに送る必要があるデータ量を削減できる。IoT(モノのインターネット)機器など、エッジでのデータ処理は可能性のある応用分野の一つだ。この場合、センサーデータを直接ストレージにストリーミングする。エッジ機器のCPUは、異常が発生したときや一定間隔で受け取るセンサーデータをクラウドにアップロードする。
ビデオトランスコーディングアルゴリズムなど、機器で直接実行される特定機能を高速化するためにASIC(Application Specific Integrated Circuit)ベースのSSDを開発しているメーカーもある。
FPGA(Field Programmable Gate Array)を使うという選択肢もある。XilinxはFPGAベースのプラットフォームを開発している。このプラットフォームは「SmartSSD」に使われている。
Xilinxは2021年第4四半期の財務諸表の中で「AI、ビデオアクセラレーション、コンポーザブルネットワーク、コンピュテーショナルストレージ向けのソリューションを提供するため、ハイパースケーラーとの強固な連携を維持している」と記している。
同社のパートナーの一つであるLewis Rhodes Labsは、ストレージアプライアンスでサイバーフォレンジック検索と称する機能を提供している。これは正規表現検索エンジンアプライアンスで、異常検出に最適化されているという。同社は、このアプライアンスは24基のSmartSSDを実装し、96TBのストレージを60Gbpsで検索して25分未満で結果を返すとしている。
コンピュテーショナルストレージに関する話題で頻繁に登場するのがNGD Systemsだ。同社の製品はLinuxが稼働するArmプロセッサベースのSSDで、OS上で汎用(はんよう)的なアルゴリズムを実行できる。
Booking.comは自社データセンターでNGD Systems製品を利用している。このデータセンターでは、消費電力と書き込み時の遅延が重要な指標になる。
Booking.comのピーター・ブッシュマン氏(ストレージの製品担当者)は次のように話す。「NGD Systemsのドライブは、消費電力と書き込み時の遅延に関してクラス最高であることが分かった。省電力なのに遅延が一貫して少なかった。当社では、スペースではなく消費電力が最大の制約になる。環境への影響の懸念が高まる中、NGD Systems製品は大いに有望だ」
コンピュテーショナルストレージは、SSDにコンピューティング機能を追加するだけに限定されない。並列コンピューティングに最適化されたアプリケーションをGPUで高速化するのと全く同様に、コンピュテーショナルストレージ拡張カードをPCに追加して特定のデータ処理を高速化することも可能だ。
後編では、コンピュテーショナルストレージ普及の課題と今後の展望を紹介する。
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