RPAが適しているもの/適していないもの:改めて考えるRPA導入【前編】
RPAが有用であることは言うまでもない。だが、当然ながら適していない用途に適用しようとすれば、失敗したり投資が無駄になったりする。
2020年4月、コロナ禍のためにシンガポールは1日に1000回以上のPCR検査を実施する必要性に直面した。当時は患者の登録と検査記録の作成を手作業で行わなければならなかった。そこでシンガポールのNational University Health System(NUHS)は医療従事者の管理負担を軽減しようと考えた。
NUHSが考えたのはRPA(ロボティックプロセスオートメーション)による患者登録と検査記録作成の自動化だった。NUHSのRPAはわずか6日間で稼働を開始し、患者の登録時間を2分からたった30秒に短縮した。その後2カ月間で7万2000件登録し、約282人日を削減した。
RPAの導入は、完全自動化のシステムやプロセスを一から構築することとは異なる。RPAはデータの取得や入力、ボタンのクリック、ファイルのアップロードとダウンロード、請求書の処理など、人間の日常の操作や作業を実行する。
人間の作業をそのまま行うということには大きな制限がある。それでもRPAにはメリットがある。RPAは作業の速度と精度を向上させると同時に、人間が他の仕事に専念できるようにする。一方、完全自動化は最初から自動化を目的に構築したシステムとプロセスを採用する。完全自動化の潜在的なメリットは大きいが、そのための工数も多くなる。そう語るのはIBMのマルコム・オン氏(アジア太平洋地域のRPA責任者)だ。
両者の妥協点はある。RPAと他の自動化ソフトウェアを統合すれば、AI、データキャプチャー、ビジネスルールとワークフローなどを含む自動化戦略の貴重なコンポーネントになる。
「他の自動化システムなどを介してタスクを完了するbotがあるとする。RPAとAIを統合し、AIで得た洞察を処理してbotに直接指示を送れば効率と顧客および従業員のエクスペリエンスを向上させることができる」(オン氏)
AIだけでなく、RPAはDPA(デジタルプロセスオートメーション)やBPM(ビジネスプロセスマネジメント)などにも統合できるとUiPathのマシュー・タン氏(東南アジア担当のプリセールスディレクター)は語る。
「RPAは軽量なので素早くデプロイできる。DPAやBPMに統合すれば、自動手順と手動手順を含むプロセスを完全にデジタル化でき、人間からロボット、ロボットから人間、ロボットからロボット、人間から人間へのタスクの引き継ぎがシームレスになる」(タン氏)
Gartnerによると、RPAツールには少なくとも次の機能が含まれていなければならない。
- 自動化スクリプトを構築するためのローコード機能
- 企業用アプリケーションとの統合
- 構成、監視、セキュリティなどのオーケストレーションと管理
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RPAが適しているもの/適していないもの
Blue Prismのダン・テルネス氏(CTO:最高技術責任者)によると、顧客との関係構築、注文処理、従業員情報の更新など、RPAは幅広い操作に適しているという。
だがRPAツールを使っても解決できない問題が幾つかある。ミリ秒単位の遅延しか許されないプロセスや極めて高いスループットが要求されるプロセスなどだ。
判断、推論、感情的知性は人間独特の資質であり、それらに依存するプロセスや意思決定もRPAには向いていないとテルネス氏は言う。
「とはいえ、RPAがインテリジェントな自動化へと形を変えるにつれ、そしてAIの精度が向上するにつれ、こうしたプロセスや決定の多くをデジタルワークフォースに引き継ぐことが可能になり始めている」(テルネス氏)
自動化の機が熟した領域として、テルネス氏は仮想カスタマーサービスを挙げる。技術、規制緩和、直販による客離れが日々の頭痛の種となっているため、企業はもっと顧客に関わり、サービスを提供する必要がある。
「ここでも自動化が助けになる可能性がある。RPA、チャットbot、スマートフォーム、自然言語処理を組み合わせれば顧客とのやりとりが実現する。人員を増やすコストをかけずに快適な顧客エクスペリエンスを提供できる」
「同時に、高度な訓練を受けた有資格者の時間と余裕が確保され、より重要なクライアントのより複雑な問題について、より有意義なレベルで関与できるようになる」(テルネス氏)
後編では、RPA導入プロセスにおける注意点と、RPAの選定に際してサプライヤーにすべき8つの質問を紹介する。
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