「事業部門主導のRPA導入」に多い勘違い:見過ごされがちな「RPA導入の鍵」(後編)
事業部門はRPAによって業務を自動化したいと考える。だが、重要な点を勘違いしたまま導入しようとする。RPA導入を円滑に進め、メリットを最大化するには何が必要なのか。
前編(Computer Weekly日本語版 2月20日号掲載)では、事業部門がRPA(ロボティックプロセスオートメーション)による業務の自動化を企図したときに立ちはだかる壁と、それを取り除く方法を紹介した。
後編では、IT部門と連携するメリットや自動化およびRPAのプロジェクトを推進するに当たって忘れてはならない事項について解説する。
Accentureが発行したレポートによると、初期のRPAプロジェクトはIT部門の介入なしに進められると誤解してしまうことが多いという。RPAツールは侵略的ではなく、従来のアプリケーションに統合する必要がない上に、どのデスクトップにもインストール可能だからだ。
またIT部門は、RPAはサポートされていないマクロと「スクリーンスクレイピング」で構築されていると仮定して、非常にマイナスな先入観を持っている。しかも、自分たちがビジネスプロセス管理システムに投資しているため、RPAは不要だとも考えている。
Accentureのオートメーションエンジニアリングサービス事業のマネージングディレクターを務めるジェームス・ホール氏によると、IT部門はRPAについて、企業をリスクにさらしかねない本質的に粗野なアプローチだと考えがちだという。
「RPAはずさんな問題解決方法だと考えられている。アプリケーションを拡張したりAPIを取り入れたりする方法を強化できれば、望ましいアプローチになるという。IT部門には、事業部門がデスクトップで何やら良からぬことをしているという認識がある。不正なアプリケーション、Excelマクロ、さまざまなサポート対象外のソフトウェアを使っているという疑いを持っている。責任者が退職した後にそれが動作不能になったら、誰がそれを修正するのかを懸念している」(ホール氏)
連携の必要性
ホール氏によると、RPAプロジェクトの多くは事業部門やセンターオブエクセレンスから生まれている。それでも良いスタートを切るにはIT部門との連携が欠かせない。
ホール氏は次のように話す。「アプリケーションにロボットがログインできるようにするにはIT部門の力が必要だ。ログイン要求は人事部門を通じて要請することが多いので、こうした規範を破らなくてはならない。また、ソフトウェアチームが基盤となるアプリケーションを変更したら、それを土台に構築されているロボットは正常に機能しなくなる可能性がある。ロボットをスケーラブルな方法で運用するためには、IT部門の内外にかかわらず正しくホストする必要がある」
「ロボットには適切なサーバ、仮想マシン、アクセス許可が必要だ。また、その全てを正しく設定しなければならない。いったんスケーリングに成功すれば、自動化プロジェクトをさらに効果的に選択することが用意になる」(ホール氏)
多くのIT部門はRPAの導入に懐疑的だ。だがRPA導入は、戦術的には正当な理由がある。
ホール氏によると、RPAはエンタープライズアプリケーションの頻繁なアップグレードが必要な場合にIT部門の負担を軽減することができるという。「アプリケーションの変更を要請することなく、小規模な拡張で対処可能だ。将来を見据えRPAを受け入れているIT部門は、RPAを理にかなったものと見ている」
IT部門に必要なのは、自身のアプリケーションアップグレードサイクルに対するRPA計画の位置付けを知り、アップグレードの負担が軽減されるのか、既存のアップグレードパスが阻害されるのかを確かめることだと同氏は話す。本当にデスクトップの自動化以外に方法がないかどうか知るために、RPAに関する意思決定に携わる必要もある。
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IT部門の回避
Capgeminiでグローバルビジネスサービス部門の最高技術責任者(CTO)を務めるリー・バードモア氏は、RPAの魅力の一つとして「IT部門を介さなくてよいことが約束されている」点を挙げた。企業人はRPAについて、IT部門と話し合うことなく手短に成功を収める方法と見ている。
その考え方は賢明とはいえない可能性がある。「このことが今の最も大きな学びの一つだ。RPAはIT部門とその厳しさを免れるための言い訳ではない」
「RPAを素早く配信できるのは確かだが、スケーリングとなると途端に頭打ちになる。IT部門のシステム配信に関する古くからの規律、つまり『堅牢(けんろう)な導入にまつわるあらゆるもの』という観点から考える必要がある。先陣を切るのは基幹業務だが、どこかの時点で前に進めないことを理解する」(バードモア氏)
同氏によると、RPAの取り組みが事業部門のみによって主導され、自動化が秘める広い可能性が見過ごされていることが問題だという。既存のAPIのみに基づいて自動化を行ったのでは、プロセスの効率化や転換に失敗してしまう。
同氏は次のように語る。「アプリケーションがプロセスを効率化するとしても、プロセスの構築自体はまだ人間が中心だ。それはRPAソリューションの単純な展開をサポートしていない。つまりプロセスを変更する際は、まず自動化することを考えるべきだ。その手段がRPAなのか人工知能(AI)なのか機械学習なのかということだ。これはわずかに異なる考え方、そして働き方だ」
RPAは大量データの処理には適しているが、特定の基準に基づいて主観的なルールを適用するのには向いていない。企業がRPAの利点を最適化するには、プロセスをシンプルにしなくてはならないことが多い。
自社独自のプロセスを細かく把握する必要があるが、ほとんどの企業は理解が不十分だという。「ロボットを構築する際は、全ての画面、全てのフィールド、キーストローク、人間がタスクを完了する順序を知らなければならない。細部の重要性は過小評価されることがある」
プロセスマイニング
自社のプロセスを理解するために役立つのがプロセスマイニングだ。これは大量のアプリケーションデータに機械学習を適用し、現在のプロセスとその改良の余地を浮き彫りにしようという手法だ。だがこれはRPAの範囲を超えてしまう。
バードモア氏は次のように語った。「プロセスマイニングを使いこなせれば『回避策の回避策の回避策』といった具合に、その存在に気付かなかったであろう別のフローを全てはっきりと把握することができる」
「それから、機会に優先順位を付けて、ポリシーを変更する必要があるかどうか、ERPの最適化が正常かどうかを評価できる。これに費用や時間がかかり過ぎているのであればRPAが適切ということになる」
事業部門主導のRPA開発をIT部門が警戒するのには正当な理由がある。だがRPAは、アプリケーションのアップグレードサイクルの負担を軽減してIT部門を戦術的にサポートすることが可能だ。RPAはプロセスの効率化に役立つツールの一つでもあるため、最終的にはエンタープライズビジネスアプリケーションのROIを向上させることにもつながる。
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