事業部門を悩ませるRPAの導入障壁:見過ごされがちな「RPA導入の鍵」(前編)
事業部門がRPA(ロボティックプロセスオートメーション)による業務の自動化を企図したとき、ある壁が立ちはだかる。RPA推進の障壁とは何か。それを取り除くにはどうしたらいいのか。
BASF(総合化学メーカー)でグローバル金融シェアードサービス部門のシニアバイスプレジデントを務めるダニエル・ドーンブッシュ氏は、登壇したカンファレンスで聴衆の爆笑を誘った。同氏のチームが取り組んでいるRPA(ロボティックプロセスオートメーション)による効率化とIT部門の関係についての質問に答えたときだった。
同氏は控えめに答えた。「IT部門も同僚だ。サーバは必要だ。そしてIT部門を介さないとサーバは使えない」
RPAメーカーのUiPathが英ロンドンで開催したカンファレンス(2018年10月)で、ドーンブッシュ氏はIT部門に感じるいら立ちについて触れた。同氏によれば、社内サーバに「UiPath」をインストールすることを要請すると、IT部門は「このRPAインフラは別のアクティビティーをホストするために使いたい」と答えたという。同氏のRPAチームはビジネスプロセスの専門家との距離を保つため、独自に技術を管理することにした。
「こうしたやりとりは途切れることなく続いている。一元化しなければならない業務は確かにあるし、そうすることは正しい。だが特にRPAは、プロセスを理解している人々と非常に密な関係を築くことが必要だ」(ドーンブッシュ氏)
Gartnerによると、企業がRPAに目を向ける理由は手動タスクの自動化とミスの低減を素早く簡単に行うためだという。同社の調査によると、2018年にはRPAソフトウェアへの投資額が全世界で6億8000万ドル(約742億円)に達した。これは前年比57%増に当たるという。2022年には累計24億ドル(約2621億円)になると予想している。
ドーンブッシュ氏は、RPAチームがIT部門との交渉に費やした期間は約7カ月に及んだと話す。こうした関係に悪戦苦闘しているのはBASFだけではない。
Lombard International Assuranceのビジネス変革および調達部門長を務めるクリスチャン・ポーン氏は、同じUiPathのカンファレンスで次のように語った。「『IT部門との関係は最初から非常に良好で、彼らはRPAをとても気に入ってくれている』という企業など聞いたことがない」
ただしIT部門がある理解に至ったとき、同氏のチームとの関係に転機が訪れたという。それは、RPAを運用するビジネス変革チームが、新たなエンタープライズアプリケーションの導入促進に必要な変更管理をサポートできることを理解したときだ。
保険会社Direct Line Groupでビジネスサービス部門のディレクターを務めるクリスチャン・デイビッド氏は、IT部門がRPAの発展を滞らせることに懸念を示した。だが、同氏のチームにも改善点があることを認識している。「最初はあまりうまくいかなかった」
「RPAソフトウェアのライセンスを幾つか購入してから、『これらのソフトウェアをメインフレームに接続してほしい』と要請してしまった。自動化は団体競技であり、このやり方は失敗だった」
同氏によると、Direct Line Groupにとっての正解はIT部門の信頼を得ることだった。「自分たちが自動化チームのプロフェッショナルになれることを証明し、面倒を起こそうとする単なるIT機能の集まりではないことを示すようにした。するとIT部門の態度が一変し、より協力的かつ温和になった」
「今は有意義なやりとりができるようになっている。当チームのアプリケーション開発リーダーは、チームをサポートできるよう何人かの開発者をクロストレーニングした。こうした開発者は空き時間にRPA開発のサポートに回ることができる」
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困難なスケールアップ
IT部門と連携するに当たっての問題は、RPAのスケーリングが難しい理由の説明になる。手動プロセスを省く方法を採用する企業は増えている。とはいえ、Deloitteの調査によると、2018年に50台を超える(RPAの)ロボットが稼働していた企業はわずか4%で、2017年から3%しか増えていない。また27%の企業が10台未満のロボットでRPAを試験運用しているか、10〜50台のロボットで完全導入に移行していた。
プロセスの断片化や、オフラインとオンラインのタスクが多岐にわたっていることがスケーリング実現の主な障害になっていると回答した企業が32%あった。RPAに対する明確なビジョンが欠如している(17%)、ITの準備が整っていない(17%)といったことが要因になっている企業もあった。
Deloitteでロボティクスおよびコグニティブオートメーションのリーダーを務めるジャスティン・ワトソン氏は言う。「RPAを素早くスケーリングできる企業はほとんどない。初期の実験を拡大するのに多くの企業が苦労している。RPAの利点、そして生産性向上の可能性を認識するには従業員が態度を改める必要がある」
後編(Computer Weekly日本語版 3月6日号掲載予定)では、IT部門と連携するメリットや自動化およびRPAのプロジェクトを推進するに当たって忘れてはならない事項について解説する。
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