「賃金データの報告」義務化で新たに生じた「HR Tech」のニーズとは:米国で進む「同一労働同一賃金」【前編】
「同一労働同一賃金」は米国企業にとって、人材を集める手段として考えられていた。だが同一労働同一賃金の法制化が一部の州で進みつつあることで、この考えは変わる可能性がある。どのように変化するのか。
米国企業にとって同一労働同一賃金は従来「企業が自主的に実施し、競争の優位性をもたらすもの」という扱いだったが、一部の州で同一労働同一賃金の法制化が進みつつある。同一労働同一賃金が重要だという認識の広がりと、それを確実に実施するための法的な後押しを受け、ある人事テクノロジー(HR Tech)ベンダーは自社ツールをアップグレードするに至った。
複数の米国の州は、賃金差別を禁止する基本的な同一労働同一賃金法を制定している。それを一歩先へ進めようとしているのがカリフォルニア州とイリノイ州だ。この2州は従業員の賃金データの報告を求める法令を新しく定め、賃金や性別、人種、民族についてのデータを報告することを従業員数100人以上の企業に義務付けた。このデータには、管理者や営業、技術者など従業員の職業区分の開示も含まれる。
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賃金データ義務化が促す「HR Tech」の変化とは
こうした同一労働同一賃金法は、賃金格差に対処するものだ。2021年3月19日に米国労働省が発表した記事によると、2020年における白人女性の年収は白人男性の約82%だったことが労働統計局のデータから判明した。
カリフォルニア州の公正雇用住居局(DFEH)によると、2020年9月に制定された賃金報告制度(州法SB-973)の目的は「賃金のパターンを実質的に把握し、同一労働同一賃金や差別禁止の法律の実効性を高めること」だ。同州の戦略的ビジョンは「差別のないカリフォルニア」だ。
賃金に関するデータや賃金管理サービスを提供するHR Tech ベンダーのPayScaleは2021年8月、英国の同業CURO Compensationを買収した。その理由の1つが同一労働同一賃金法への対処だ。CURO Compensationは従業員の賃金格差分析ができるソフトウェアを提供している。
英国は既に同一労働同一賃金法を幾つか制定しており、CURO Compensationのソフトウェアはこうした規制の準拠に役立つ可能性がある。PayScaleのCEOスコット・トリー氏は「類似の法律が米国で採択され始めている」と語る。
トリー氏によると、PayScaleのシステムには既に同一労働同一賃金の年次賃金データレポートを提出する機能があった。今回の買収で同社は、雇用主がデータをカスタマイズして賃金格差を特定するセルフサービス機能や、賃金格差を是正するための提案をするツールなどを既存のシステムに追加できるようになる。
「同一労働同一賃金を採用活動の差異化要因として扱う企業もある」とトリー氏は話す。「透明性を高めるほど、優れた人材を引き付け、多くの人々が同一労働同一賃金を実感できるようになる」(同氏)
同一労働同一賃金の順守を企業の自主性に任す時代は終わろうとしている。カリフォルニア州にならって、同一労働同一賃金を求める法律を制定する自治体が米国内でさらに増える可能性がある。従って「この動向を先取りすることが望ましい」とトリー氏は語る。
後編は、カリフォルニア州が同一労働同一賃金のために取り組む可能性がある施策について専門家に聞く。
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