コンプライアンス違反の通報が多い企業ほど働きやすい“なるほどの理由”:コンプライアンス違反の通報と職場の変化【前編】
コンプライアンス違反の内部告発が多い――。これは一見、危険な兆候のように思えるが「実態はそう深刻ではない」と専門家は話す。内部告発の増加が企業にメリットをもたらす理由とは。
裏付けに乏しい話だが、近年は一昔前に比べて、会社勤めで不幸になる人が増えている印象がある。ソーシャルメディアには「職場の慣行」に対する批判があふれている。ソーシャルメディア「Reddit」で約190万人の登録者を抱える「Antiwork」(反労働)のスレッドは、批判の声があふれる場所の一つだ。
米国は2002年に、コンプライアンス違反を通報するための窓口やコンプライアンスホットラインの設置を上場企業に義務付けるサーベンス・オクスリー法(SOX法)を制定した。従業員はこれらのホットラインを利用して、企業資産の不正使用や横領などの財務問題や差別、ハラスメント、ダイバーシティー(人材の多様性)などの人事労務問題について通報できる。米国企業は一般的に、第三者機関が提供するホットラインサービスを利用して従業員が匿名でコンプライアンス違反を通報できるようにしている。
2021年は内部告発が増加 「前向きな兆し」と専門家が話す理由は?
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NAVEXはコンプライアンスホットラインの管理をはじめとしたリスク管理サービスを提供する企業だ。同社はコンプライアンスホットラインに寄せられた通報に関するトレンドを追跡している。同社が発表した調査レポート「Risk & Compliance Incident Management Benchmark Report」の2021年版は、2020年に同社がサービスを提供する企業に所属する従業員から寄せられた通報データをまとめたものだ。寄せられた通報は130万件に上る。
調査レポートによると、2012年における内部告発数は、従業員100人当たりの中央値で1.2件だった。2014年は1.3件に増え、2016年に1.4件に達すると、その水準が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が起こる前まで続いた。パンデミック以降は1.3件に減少。これはパンデミックによる「一時帰休」「レイオフ」「オフィスワークからテレワークへの移行」が影響している可能性がある。
NAVEXは2021年のデータも予備的に分析している。同社で最高リスク・コンプライアンス責任者を務めるキャリー・ペンマン氏によると、2021年は従業員からの通報数の水準が再び上昇していた。「とりわけ2021年後半に顕著だった」とペンマン氏は話す。
ペンマン氏は、この通報の増加を前向きな兆しと捉えている。「コンプライアンス強化策を実施する目的は、従業員が安心して懸念事項を通報したり、社内で質問したりできる環境を築くことにある」と同氏は述べる。
「通報システムが積極的に活用され、頻繁に利用されている企業ほど、働きやすい会社になりやすい」と、George Washington University School of Business(ジョージ・ワシントン大学経営大学院)で会計学のアシスタントプロフェッサーを務めるカイル・ウェルチ氏は指摘する。
こうした企業は日頃から従業員に対し、フィードバックを積極的に求めているとウェルチ氏は説明する。結果として通報の数は増えることになるが、コンプライアンス違反に対する訴状が提出される件数は減る。訴訟になっても和解金額は低く収まり、罰金も減る傾向にあると同氏は話す。同氏は、匿名化したNAVEXのデータからこうした分析結果を導き出し、調査レポート「Strength in Numbers: The ROI of Compliance Program Hotline Reporting」を2018年11月に発表している。
労働慣行の変化が及ぼす影響
ウェルチ氏によれば、従業員による通報を奨励する企業は、こうしたシステムが「他のやり方では耳に入ることのない情報を知るための手段」であることを理解している。一方で問題を耳にしなければ、あるいはこうした通報システムがなければ、“社内に問題は存在しない”と捉える企業もある。
実際はそうではない。「人間を管理する以上、どのような企業でも問題を抱えることになる。これを免れる企業はない」とウェルチ氏は断言する。
NAVEXのデータは、従業員が通報に使える全ての選択肢を網羅しているわけではない。コンプライアンスホットラインの他にも、従業員は上司や人事部門、監査部門に直接懸念事項を伝えたり、場合によっては取締役会に書簡を送ったりすることがある。連邦政府や州政府機関に直接問題を通報する、ソーシャルメディアに不満を投稿するといった方法で不正を告発するケースもある。
後編は、内部告発の増加に影響を及ぼした社会的潮流の変化を紹介し、従業員が声を上げやすくなる仕組みを探る。
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