“宇宙の謎”に挑む大学がスパコンを「スイッチレス化」した理由とは?:スーパーコンピュータとネットワーク【前編】
ダラム大学の研究所は、宇宙関連の研究に用いるスーパーコンピュータ「COSMA7」を「スイッチレス」のネットワークアーキテクチャによって刷新した。これにより何が可能になるのか。
英国のダラム大学(Durham University)の計算宇宙学研究所(ICC:Institute for Computational Cosmology)は、宇宙関連の研究に用いるスーパーコンピュータ「COSMA」シリーズの一つ「COSMA7」を刷新した。新たに取り入れたのはスイッチレス(スイッチを使用しないこと)のネットワークアーキテクチャだ。スイッチレスの仕組みとそれによって見込める効果を紹介する。
スパコンの「スイッチレス化」を決めた理由とは?
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ICCでは、約50人の研究者で構成するチームが宇宙関連の研究を進めている。チームは複数台のスーパーコンピュータを利用し、研究に必要なシミュレーションを実施する。例えばICCは、宇宙の始まりだと考えられている大爆発(ビッグバン)から21世紀に至るまでの宇宙の状態のシミュレーションを通じて、宇宙の進化過程を観察する。
シミュレーションにおいて、ICCはさまざまな物理学の法則を適用する。調査するのは、暗黒物質(質量を持つ未知の物質。ダークマターとも)や暗黒エネルギー(宇宙を膨張させる未知のエネルギー。ダークエネルギーとも)といった、人類がいまだ解明していない事柄に関する事象だ。シミュレーションでは複数のパラメーターを適用し、その結果を望遠鏡で観測した内容と比較する。
COSMA7の刷新は、
- DiRAC(Distributed Research Using Advanced Computing):ロンドンにあるスーパーコンピューティングセンター
- ExCALIBUR(Exascale Computing Algorithms and Infrastructures Benefiting UK Research):2019年に英国で開始した次世代シミュレーションソフトウェアの開発プロジェクト
が支援している。DiRACはダラム大学の他、ケンブリッジ大学(University of Cambridge)やレスター大学(University of Leicester)、エディンバラ大学(University of Edinburgh)など、英国の大学にスーパーコンピュータ関連設備用のITリソースや資金を提供している。ExCALIBURは、スーパーコンピュータで次世代シミュレーションソフトウェアを活用することを目的とした4570万ポンドの資金を提供している。
Dell TechnologiesがICCにネットワーク機器ベンダーRockport Networksを紹介したことが、COSMA7刷新のきっかけになった。ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の研究開発においてCOSMAに関わっていたDell Technologiesは、ICCがRockport Networksの技術に興味を持つのではないかとみて両者を引き合わせた。COSMAのより安定的かつ効率的な稼働を目指していたICCは、PoC(概念実証)の実施後にCOSMA7のネットワークアーキテクチャの刷新を決定した。
ICCはCOSMA7の刷新に当たり、Rockport Networksのネットワーク製品群「Rockport Switchless Network」を使うことに決めた。同製品群はスイッチを使用しないネットワークアーキテクチャを採用している。具体的には、スイッチング機能をCOSMA7のエンドポイントのノードに担わせる。スイッチング機能がエンドポイントのノードに分散することで、COSMA7の処理速度のボトルネックになる可能性のある輻輳(ふくそう)のリスクを低減する。これにより、研究におけるシミュレーションの効率化や、データ生成の高速化につながる可能性がある。
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