始める前に要チェック 違法にならない「電子取引データの保存環境」とは:「電子取引データ保存の義務化」に向けた準備と運用【第3回】
電子取引データの保存方法や保存環境については、法令が定める事柄だけではなく、別段の定めがない要素についても具体的に把握しておくと、スムーズに準備を進める助けになる。実務で気を付けたいポイントは。
国税庁の「電子帳簿保存法一問一答」(Q&A)には、「電子取引」におけるデータ保存の法解釈から実務で直面しがちな疑問点まで、詳細にまとまっている。本稿は2022年6月に公開された改訂版のQ&A(電子取引関係)に基づき、電子取引データの「保存環境」に関する要件と、実務で気を付けたいポイントを解説する。
電子取引データの保存環境要件はここに注目
電子取引データ保存環境の要件については、以下のような特徴がある。
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連載:「電子取引データ保存の義務化」に向けた準備と運用
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- ディスプレイやプリンタの性能や設置台数は要件に含まれていない
- 整然・明瞭な状態で画面や書面に速やかに出力できる状態であれば、画面印刷(ハードコピー)であっても認められる。ただし印刷した書面を保存すればよいわけではない
- 記憶媒体の種類によらず保存要件は同一。外部記憶媒体に限った要件はない
利用中のシステムが電磁的記録の検索要件を満たしていない場合、システム改修ではなく何らかの外部機能で補って解決してもよい。ただしどのような検索機能を利用する場合でも、原則として「一課税期間」(1年間)を通じて検索できる状態になっていなければならない点に注意が必要だ。
バックアップデータの保存は要件に含まれていない。しかしデジタルデータは「消滅」「記録状態の劣化」というリスクが常にあることを考慮すると、保存期間中の可視性を確保するためにバックアップデータを保存するのが望ましい。
電磁的記録を保存する場所については特に国内に限定するルールはない。ディスプレイの画面や書面に速やかに出力できるのであれば、クラウドサービスや海外のサーバを利用して保管することは問題ない。
真実性の確保要件を満たす保存方法
電子的に受け取った請求書や領収書などの国税関係書類は原則としてデータのまま保存しなければならない。その際、保存方法の原則的な要件として、真実性確保の観点から以下のいずれかを満たす必要がある。この点は連載第1回「2022年改正電子帳簿保存法を改正前と比較、『4つの変化』とインパクト」でも解説しているので、併せて参照してほしい。
- タイムスタンプ付与後に取引データを授受する
- 取引情報の授受後速やかにタイムスタンプを付与する
- 訂正削除履歴が確認できるシステムか、訂正削除自体ができないシステムを利用する
- 訂正削除防止に関する「事務処理規程」を整備する
取引情報をデータとして保存する場合に考えられる保存方法には幾つかの類型がある。具体的には以下の通りだ。クラウドサービスを利用して請求書を受け取っている場合に、確認のためメールでも同一の請求書が届いた場合は、どちらかのデータを保存すれば問題ない。
- メールに国税関係書類が添付された場合
- 添付されたメールそのものを自社システムに保存する
- 添付された国税関係書類を自社システムに保存する
- 発行者のWebサイトで国税関係書類をダウンロードする場合
- PDFといった形式で、領収証などのデータをダウンロードできる場合
- Webサイトに保存する
- データをダウンロードしてサーバやストレージなどに保存する
- HTML形式で表示される場合
- Webサイトに保存する
- 表示されるスクリーンショットをサーバやストレージなどに保存する
- HTMLデータをPDFなどのファイル形式に変換してサーバやストレージなどに保存する
- PDFといった形式で、領収証などのデータをダウンロードできる場合
- 第三者が管理するクラウドサービスを利用して国税関係書類を受け取る場合
- クラウドサービスに国税関係書類を保存する
- クラウドサービスからダウンロードして自社サーバやストレージなどに保存する
- スマートフォンアプリケーションを利用して経費を立て替えた場合
- スマートフォンに表示される国税関係書類データをメールで送信して自社システムに保存する(スクリーンショットでも可能)
次回は、実務で見落としやすい状況を例に挙げ、電子取引データの具体的な保存方法を考察する。
連載について
本連載は、会計とIT領域の豊富な経験を持つ公認会計士が、2022年1月施行の改正電子帳簿保存法の要点を解説する。「電子取引のデータ保存義務付け」など実務に影響する大きな改正を踏まえて、書面ベースの経理業務からペーパーレスを効率的に進める方法や、必要となる中堅・中小企業向けシステム選定と運用のポイントを紹介する。
原 幹(はら・かん)
公認会計士、公認情報システム監査人(CISA)。監査法人にて会計監査や連結会計業務支援、ITコンサルティング会社にてITを活用した業務改革支援に従事し2007年に独立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計、IT領域の豊富な経験を生かした支援業務に従事。ベンチャー企業の社外役員としても多くの関与実績があり、コーポレートガバナンスの知識・経験も豊富。著書に『1冊でわかる!経理のテレワーク』(中央経済社)『ITエンジニアとして生き残るための会計の知識』(日経BP)など。
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