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マイクロマネジメントで「従業員がつぶれる」前に考えるべきAI問題業務監視ツールとAI技術を巡る法規制【第3回】

英国ではコロナ禍をきっかけに業務監視ツールが普及したことで、業務監視ツールの性能を強化する「AI技術」の適正利用に向けた議論が進みつつある。労働者の権利保護という観点で、英国で特に問題視されているのはどの部分か。

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 英国で業務監視ツールが普及するきっかけになったのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)だった。英国IT専門職の労働組合Prospectが2022年2月に公開した調査データによれば、英国では5社に1社の割合で、業務監視ツールを既に導入しているか、パンデミックをきっかけに使用すると回答していた。

 この状況を受け、英国労働組合会議(TUC:Trades Union Congress)は2022年2月に調査資料を公開し、次のように警告した。「従業員を保護するための規制を強化しなければ、業務に押し入ってくる監視ツールとAI(人工知能)技術は『制御不能に陥る』可能性がある」。英国では業務監視ツールとAI技術を巡る法規制について、どのような議論が進んでいるのか。

AI技術のリスクに対して規制は必要か否か

 この調査は、TUCの委託で研究機関Thinks Insight & Strategyが2021年12月14日から12月20日の間に実施したもので、対象はイングランドとウェールズの労働者2209人。調査によると「職場で何らかの監視やモニタリングを受けたことがある」という回答者は60%に上る。業務監視が従業員のプライバシーや権利を侵害していることについて、TUCは強い懸念を示す。回答者の28%は、パンデミック以降にデジタルツールを通じた業務監視が増加していると考えていた。

 こうした業務監視ツールの性能を強化しているのがAI技術だ。英国の超党派議員連盟の一つ「All-Party Parliamentary Group for the Future of Work」は、2021年11月に調査資料「The New Frontier: Artificial Intelligence at Work」を公開。調査の過程で、AI技術の導入が英国中の労働条件や業務の質に著しい悪影響を及ぼすことを示すエビデンスが集まったという。資料によると、英国では透明性を確保せず、説明責任をほとんど果たさない状態でAI技術を従業員の監視と管理に利用する状況が見られる。業務監視ツールや、目標管理ツールによって、従業員はリアルタイムで常にマイクロマネジメント(従業員の業務を細かく管理すること)され、自動化された人事評価で極度のプレッシャーを受けている。そのことが精神的、身体的に顕著な悪影響を及ぼす要因となっているという。

 Prospectが英国のITエンジニア1000人以上を対象として、2023年5月に実施した調査によれば、回答者の58%が「人々の仕事を保護するために、政府は職場での『ジェネレーティブAI』(生成AI)の使用を規制すべきだ」と考えていた。生成AIはコストよりもメリットの方が上回る可能性があり、政府は生成AIの推進に介入すべきではないと考える回答者は12%だった。

 Prospectの副代表であるアンドリュー・ペイクス氏は「AI技術が今後も仕事を変革することは確実」と断じる。その上で「政府は労働者および企業と協力して、技術を公平に利用するための新しいルールの策定に取り組む必要がある」と主張する。


 第4回は、業務監視ツールやAI技術の適正利用に向けた、英国政府の動向を紹介する。

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