「本当は要らなかったツール」を見極める方法 AdobeのCIOが振り返る:Adobeが注視する“これからの技術”【前編】
Adobeのシンシア・ストッダード氏は、CIOとしてIT利用に関するさまざまな施策を統括してきた。特に変化が大きかったのがパンデミックだという。同社の取り組みの方向性はどう変わったのか。
PDFファイルの作成・編集ソフトウェアのベンダーとして知られるAdobe。2016年に同社CIO(最高情報責任者)に就任したシンシア・ストッダード氏は、同社のIT戦略に関わるさまざまな施策を統括してきた。特に大きな変化を経験したのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)だったという。クラウドサービスや働き方に関する同社の取り組みはどう変わったのか。ストッダード氏に振り返ってもらった。
必要なIT、本当は要らないツールの見極めが不可欠に
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)中、Adobe社内ではクラウドサービスに関する考え方の変化があった。オンデマンド(要求に応じてすぐに利用できること)でITを利用するニーズが強まり、同社は従来以上にクラウドサービスを重視するようになった。特にMicrosoftやAmazon Web Services(AWS)といった大手クラウドベンダーとの協力関係を強化してきた。
「AdobeのDNAにはクラウドの存在が刻み込まれた」とストッダード氏は話す。同社ではクラウドサービスを使うことはごく自然で、日常的なことになったという。
クラウドサービスを活用する取り組みと並行して、Adobeはテレワークとオフィス勤務を組み合わせる「ハイブリッドワーク」を推進した。その取り組みの中で、ストッダード氏は職場の生産性を高める方法を検討するようになった。2024年に向けた優先事項の一つは、従業員エクスペリエンス(働くことで得られる体験価値)の向上だ。焦点は、ハイブリッドワークのしやすさを追求することにある。
従業員エクスペリエンスを改善する取り組みにおいて、Adobeが中軸に据えるのが「Lab82」だ。これはカリフォルニア州サンノゼの本社に設置した、従業員エクスペリエンスを向上させるための実験用スペースとして始まった。同社がハイブリッドワークにシフトする中で、Lab82は物理的なスペースから、未来の仕事を幅広く考察するプロジェクトへとその姿を変えた。
Lab82の目的の一つは、従業員の仕事を支える技術やツールを評価することだ。新たな技術やツールを本格的に導入する前に、それが職場に適しているのかどうかをテストする。「仮に概念実証(PoC)を実施したとしても、本格導入後にうまく機能しないことはよくあることだ」と、ストッダード氏は取り組みの背景を語る。
例えばLab82は、従業員がコミュニケーションをするためのコラボレーションツールが同社の働き方に適しているかどうかを評価する。デスクやテーブルといった、ITのツール以外も評価しているという。ストッダード氏の言葉を借りれば、これは「従業員にとって本当に必要なものとそうでないものを見極める作業」だ。同氏は変化の激しかったパンデミックでさまざまなことを学んだと強調。「新しい技術やツールを試験的に使うことは、当社にとって欠かせない取り組みになった」と語る。
次回は、AdobeがRPAといった自動化ツールをどのように活用しているのかを紹介する。
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