「現場の業務理解が不可欠」とデータガバナンス管理者が強調する訳:トムソン・ロイターが考える倫理的なAI活用【中編】
Thomson Reutersでデータガバナンスを管轄する経営幹部は、ルールや倫理綱領を従業員に周知徹底するに当たって、全従業員の多種多様な業務の流れを全て理解したという。その理由は。
経済や金融などさまざまな分野で情報サービスを提供するThomson Reutersは、AI(人工知能)技術の利用において公平性や透明性、安全性の確保を重視している。同社でデータガバナンスを管理する経営幹部の一人が、データおよびモデルガバナンス担当バイスプレジデントのカーター・クシノー氏だ。クシノー氏が率いるグローバルチームには、カナダ、スイス、インド、英国、米国の担当者が参加し、データの収集からデータモデルの廃止まで、データのライフサイクル全体に関与している。
Thomson Reutersがデータガバナンスのルールやポリシーを確立し、データのライフサイクルを構築するに当たって、クシノー氏が率いるグローバルチームは何を重視したのか。
日常業務にガバナンスを自然に組み込むための努力
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クシノー氏が取り組むミッションの一つは、データガバナンスを確保するためのシステムやポリシーから成る基盤を構築することだ。そのためには、ポリシーや業界標準を取り入れ、基盤構築のアプローチを実践し、検証の仕組みを実装する必要があった。同氏が最初に手掛けたのは、ガバナンスと倫理を軸とする計画を立案することだったという。「その結果、現在はこれらの基盤が整っている」と同氏は説明する。
基盤構築の一環として、Thomson Reutersはクラウドデータウェアハウス(DWH)ベンダーSnowflakeの同名サービスを使い、従業員が業務に必要な洞察を得られるようにした。長期にわたる改革の準備として、Thomson Reutersはクラウドサービスを使って一連のシステムを構築するようにした。全ての企業情報はSnowflakeのデータクラウド(DWHやAI技術などのデータ分析サービス)に取り込み、Thomson Reutersが「データプラットフォーム」と呼ぶ場所に格納される。
技術の進化は速い。中でも、エンドユーザーの指示を基にテキストや画像、音声などのデータを生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)の分野は特に技術革新のスピードが速く、ポリシーや業界標準は継続的に変化し、洗練されている。データ管理基盤の構築が一段落した現在、クシノー氏は、Thomson Reutersの全従業員がガバナンスの意味や目的を適切に理解できるようにする取り組みに着手している。各事業部門が適切なアプローチを確実に実施できるようになるまで、クシノー氏のチームはかなりの労力を投入しているという。「こうした取り組みこそが、文化の変化を促し、人々に影響を与える助けになる」と同氏は述べる。
クシノー氏によれば、同氏のチームメンバーは全従業員の多様な業務の流れを全て認識している。チームメンバーはこうした業務に関する知識を生かして、データ管理のポリシーが従業員の業務に適した形で反映されるように促している。「ガバナンスを効かせるための取り組みとは、全従業員の日常業務に合わないやり方やツールを構築することではない」と同氏は主張する。従業員の業務の流れは部門や職務によって大きく異なる。機械学習モデルの使い方を例に挙げても、財務部門、製造部門、営業部門で使い方は大きく異なるものだ。
「最も望ましくないやり方は、データサイエンティストやデータモデル開発者、製品担当者ごとに『ガバナンスについてのやるべきことリスト』をばらばらに作ることだ」とクシノー氏は警告する。同氏のチームは長い時間をかけて現場の業務を理解したからこそ、この考えに至った。「ガバナンスや倫理綱領を従業員ごとの業務に自動的に組み込むことができれば、はるかに簡単になる」と同氏は強調する。
後編は、クシノー氏が注視する、AI関連の法規制の動向を紹介する。
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