Microsoftの独禁法違反懸念に対して、EUの調査が進まなかった理由:Microsoftの企業買収と市場の独占【後編】
「Microsoft Teams」の販売方法が欧州連合(EU)の独占禁止法違反の可能性があるとして、Microsoftを取り巻く動向が注目を集めている。専門家が指摘する「訴訟が進みづらい理由」とは。
ビジネスチャットツール「Slack」を手掛けるSlack Technologiesは2020年7月、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会にMicrosoftを独占禁止法違反で提訴した。オフィススイート市場で支配的な立場にあるMicrosoftが、「Microsoft 365」(Office 365)と「Microsoft Teams」をバンドル(組み合わせて販売)することは独占禁止法違反かどうか、が争点だった。欧州委員会は2023年7月に、この争点を評価するための正式な調査を開始した。
専門家は「独占禁止法に関する訴訟は進展しづらい」と指摘する。その理由を、Microsoftが過去に手掛けた企業買収事例を例に挙げて解説する。
独占禁止法の立証が難しい理由、Microsoftが受ける影響度は
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連載:Microsoftの企業買収と市場の独占
欧州のデジタル技術市場における競争と独占
消費者や企業保護の観点から積極的な反トラスト法(米国における独占禁止法)の執行を提唱する非営利団体、米国反トラスト協会(American Antitrust Institute)の代表であるダイアナ・モス氏は「バンドル提供が市場の健全な競争を阻害しているかどうかを判断するためには、幾つかの要素を原告が証明する必要がある」と指摘する。モス氏が挙げる「原告側が証明すべき要素」は以下の通りだ。
- 提訴した企業が市場において独占的な立場にあること
- その立場を利用してある市場から別の市場へと支配力を拡大し、公正な競争を制限していること
- 競争を制限した結果、製品やサービスの価格引き上げのような形で消費者に損害を与えていること
モス氏によれば、独占禁止法に関する訴訟が審理開始から進展しづらい理由は、これらの証明が難しいためだ。「既存の製品やサービスに足りない要素を新しく追加することで、市場で競争優位性を確立する。そしてその優位性を他の市場で活用する。これがIT企業で主流となっているビジネス手法だ」とモス氏は語る。
例えば2022年1月、Microsoftはゲーム会社Activision Blizzardの買収計画を発表した。この計画に反対した欧州委員会は買収計画に対する調査を実施したが、2023年5月には買収を承認した。欧州委員会と同じく反対の立場だった米国連邦取引委員会(FTC)も、この買収計画を阻止する仮差し止め命令を裁判所に申し立てたものの、棄却された。「これらの事例は、こうしたデジタル技術に関する企業買収が市場の公正な競争を阻害していると立証することがいかに困難かを示している」とモス氏は語る。MicrosoftがMicrosoft5 365にMicrosoft Teamsをバンドルした事例についても、FTCがEUのように調査をする可能性は低いと同氏は推測する。
モス氏によれば、欧州委員会がMicrosoft Teamsのバンドル提供について調査を続けたとしても、Microsoftに影響が及ぶかどうかは疑わしい。欧州委員会は、企業の解体といった「構造的措置」(Structural Remedy)よりも、「行動的措置」(BehaviouralもしくはConduct Remedy)に基づいて企業と和解してきた過去を持つからだ。
行動的措置は、事業活動の規制や透明性の確保といった、競争上の懸念を排除するための規定に企業が同意して従うものだ。欧州委員会の実績を踏まえると、行動的措置がMicrosoftに対して有効に機能するかどうかは不明だ。ただし競争上の問題を解決するに当たっては、行動的措置を受け入れるにとどまっているのが、欧州の現状だという。「IT市場における独占と公正な競争の阻害について、課題は少なくない」とモス氏は指摘する。
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