売り手市場米国に学ぶ「働きたい条件」 人が“集まる州”にあるものとは?:世界で深刻化する労働力不足【後編】
米国では労働力不足が深刻化しているものの、影響の度合いは州によってグラデーションがある。労働力確保のために、企業が努力できることは何か。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)をきっかけに、米国では従業員の離職が続く“大量退職時代”(The Great Resignation)が課題となっている。しかし全ての州がその影響を受けているわけではない。全米50州とワシントンD.C.を対象とした米国商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)の調査から、深刻な影響を受けている州と受けていない州の違いを探る。
人が集まる州、集まらない州の違い 働きたい条件とは?
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連載:世界で深刻化する労働力不足
良い人材を採用するために
米国商工会議所が2024年1月9日に公開した資料「Understanding America’s Labor Shortage: The Most Impacted States」によると、2023年9月時点で最も深刻な影響を受けているのはニューハンプシャー州で、労働力不足指数は0.28だった。つまり100件の求人に対して28人しか労働者がいなかったことになる。次いで労働力不足指数が低い州は、ノースダコタ州(0.30)、メリーランド州(0.33)、サウスダコタ州(0.36)、バーモント州(0.36)だ。「企業が水準に見合った賃金を支払っていない」「労働者がその州に暮らしたいと思わない」などの要因から、これらの州では労働力の確保が困難になっていると考えられる。
一方、労働力不足の影響がそれほど深刻ではないのは、ネバダ州(0.93)、カリフォルニア州(0.92)、ニューヨーク州(0.87)だ。中でもカリフォルニア州やニューヨーク州が豊富な労働力を確保できている要因として、これらの州を拠点とする企業の数や、各州の人口規模の大きさ、州が持つ魅力、競争力の高い給与体系などが考えられる。
労働力不足を解消するには
労働力不足の解消に向けて、個人ができることは限界がある。労働市場の安定には米国政府の施策が必要だというのが経済学者の見方だ。米国内の失業率が低いのは一見良いことのように思えるが、米連邦準備制度理事会(FRB)は低過ぎる失業率が引き起こす可能性のあるリスクに言及している。例えば、労働市場が逼迫(ひっぱく)することで消費者物価指数が上昇したり、ビジネスの生産性が阻害されたりする可能性があるという。ジョー・バイデン大統領も、労働力増加に向けた移民の活用に言及している。労働力不足の状態に対して、企業が取るべき行動にはどのようなものがあるのか。
従業員を定着させる
すでに働いている従業員をいかに定着させるかは有用な取り組みの一つだ。労働力不足の状態は労働者にとって“売り手市場”を意味する。従業員がより良い求人を見つける前に、彼らが自社をどう思っているのかをヒアリングし、「自分は価値のある存在だ」と感じられるような仕組みを構築することが重要だ。賃金の引き上げや福利厚生の充実はすぐにできることではない。しかし長時間労働やストレスの多い業界においては、ワークライフバランスを整え、従業員を燃え尽き症候群に陥らせないようにしたい。
魅力的な募集要項を作成する
働きたいと思ってもらえるような職場環境にすることも重要だ。“売り手市場”は労働者が希望する求人を選びやすくなっている状態だ。給与水準の高さや福利厚生、優れた企業文化、柔軟な働き方、わくわくするような業務内容といった情報は、労働者にとって最優先事項だ。採用担当者は、他の企業よりも魅力的だと思わせるような募集要項を作成し、労働者に興味を持ってもらう必要がある。
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