英国スパコンの気になるスペック 「Dawn」と「Isambard-AI」は何がすごい?:英国のスパコン事情
英国政府は、ケンブリッジ大学の「Dawn」とブリストル大学の「Isambard-AI」というスーパーコンピュータに研究開発に資金を投入し、AI技術研究を推進している。気になるスペックは。
英国のスーパーコンピュータ「Isambard-AI」と「Dawn」が連携し、産官学協働の研究開発が加速する見込みだ。
Isambard-AIは、ブリストル大学(University of Bristol)とHewlett Packard Enterprise(HPE)が共同開発する人工知能(AI)システム向けのスーパーコンピュータで、英国政府は研究資金として2億2500万ポンド(約420億円)を投じる計画を発表している。一方Dawnは、ケンブリッジ大学(University of Cambridge)とIntel、Dell Technologiesが共同開発するスーパーコンピュータで、同大学の研究機関Cambridge Open ZettaScale Labに配備されている。Dawnは、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC:高性能計算)技術ベンダーStackHPCのクラウド構築ソフトウェア「Scientific OpenStack」で稼働する、AIシステム向けのスーパーコンピューティングクラウドインフラだ。英国政府は、AI分野の研究を支援する国家的コンピューティングリソース「Artificial Intelligence Research Resource」(AIRR)に3億ポンド(約560億円)を投資し、立ち上げを支援した。Isambard-AIとDawnはAIRRにひも付く設備となる。
英国AIスパコンの気になるスペック
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Dawnは、Dell Technologiesのサーバ「PowerEdge XE9640」、Intelのプロセッサ「Intel Xeon Scalable」、Intelのアクセラレータ「Intel Data Center GPU Max」シリーズなどの製品を搭載し、AI技術だけではなくHPCの用途にも利用できる十分な演算能力を持つ。「PowerEdge XE9640が搭載する直接液冷システムは、従来の空冷システムよりも冷却効率と費用対効果が高い」とDell Technologiesは説明する。
クラウド構築ソフトウェアとしてDawnが採用しているScientific OpenStackは、AI技術やシミュレーションに最適化されたものだ。Scientific OpenStackは、Intelが推進するオープンソースの開発環境「OneAPI」を利用できることから、さまざまなハードウェアアーキテクチャへ移植できるソースコードを作成しやすくなる可能性がある。
ケンブリッジ大学で研究用コンピューティングサービス担当ディレクターを務めるポール・カレハ氏はこう説明する。「Dawnのフェーズ1は、英国のAI研究能力を前進させる大きな一歩であり、今すぐに使える状態だ。フェーズ2は現在の英国におけるコンピューティング能力の10倍の性能水準を目指すもので、2024年の実用化を見込んでいる。フェーズ2ではフェーズ1のシステムが重要な役割を果たす」。Dawnのフェーズ2が実用に至れば「英国のAI技術が大幅に高まる」と語るカレハ氏は、産官学連携の継続に関して意気込みを見せる。
Dawnと同様にIsambard-AIも、HPEのスーパーコンピュータ「HPE Cray EX」の一部として直接液冷システムを備え、電力効率と二酸化炭素(CO2)排出量を改善している。HPEの説明によるとIsambard-AIは、サイエンスパークBristol & Bath Science Parkの研究施設National Composites Centreにある「HPE Performance Optimised Data Center」を利用している。HPE Performance Optimised Data Centerは設備一式を備えた組み立て済みのデータセンターだ。こうした設備を用いて構築した自冷式かつ自己完結型(冷却や電力などのインフラを内部に備えた構造)のデータセンターで、Isambard-AIは稼働している。
Isambard-AIを構成するハードウェアは、NVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティング用モジュール「NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip」を5448基搭載している。これはArmアーキテクチャベースのCPU「NVIDIA Grace」と、電力効率およびスケーラビリティに強みを持つGPU(グラフィックス処理ユニット)「NVIDIA Hopper」を組み合わせたものだ。ストレージシステムは、AI技術に最適化された「Cray Clusterstor E1000」を採用し、サーバ間のインターコネクト(相互接続)には「HPE Slingshot 11」を利用する。
HPEはブリストル大学と協力し、排熱再利用システムを開発中だ。Isambard-AIの排熱を再生可能エネルギーとして回収し、近隣施設の暖房に利用している。こうした活動は、英国政府が掲げる2030年または2040年における「ネットゼロ」(温室効果ガスの排出量と、除去量および吸収量が等しい状態)目標を支える。
「英国のAI技術は高度成長期にある。AI技術の潜在能力をコンピューティングで解放するには、強力な国内投資に加えて、ケンブリッジ大学やDell Technologies、Intelが取り組む共同研究のような、産官学連携が欠かせない」。Dell Technologiesで英国の公共部門担当責任者を務めるタリク・フセイン氏はこう話す。
フセイン氏は、英国政府が適切な技術とインフラに投資して、AI技術とエクサスケール(1秒間に100京回規模の計算速度)のコンピューティングにおける研究をリードすることが特に重要だと考える。近年は産業分野のシミュレーションモデリング(現実世界の問題をコンピュータで分析すること)や、ジェネレーティブAI(テキストや画像などを自動生成するAI技術)などの需要が生まれている。「GPUを筆頭にさまざまな領域の技術を取り入れて、AI技術を扱う組織がこうした画期的な科学研究に取り組める環境を整えることも欠かせない」(同氏)
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