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「5G」の次世代「6G」で何ができる? インドで始まる“モバイルの未来”を解説通信機器ベンダーが語る6Gの技術と活用例

通信機器ベンダーEricssonは、インドにおける「6G」研究プログラムを開始した。どのような新技術や活用例が登場するのか。名門工科大IITと提携する狙いとは。

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データ通信 | ネットワーク


 通信機器ベンダーEricssonは、「6G」(第6世代移動通信システム)の研究開発プログラム「India 6G program」をインドで立ち上げた。2023年10月の同社発表によれば、チェンナイ、ベンガルール、グルガオンのインド国内3カ所の研究開発(R&D)センターのうち、チェンナイの拠点で6G研究チームが発足した。チームは無線通信や人工知能(AI)、クラウドコンピューティングなどの技術に精通した研究員で構成される。

 Ericssonがインド市場に進出したのは1903年にまでさかのぼる。同国で研究チームを発足させたのは2010年のことだ。Ericssonは、これからインドが“6Gの最前線”になると期待をかけている。それを実現するための取り組みの一つになるのが、Ericssonの6G研究チームの活動だ。技術面、ユースケース(想定される活用例)面で具体的にどのような取り組みが進むのか。

「6G」の新技術と活用例

 Ericssonは6Gを活用することで、デジタル世界と現実世界の融合を図り、シームレスな対話や没入型体験の実現を目指す。メリットとしては効率性や持続可能性の向上が見込める。具体的には以下のようなユースケースがある。

  • XR(Extended Reality)
    • 現実世界と仮想世界を融合し、多感覚を用いて、現実にはないものを知覚体験する。
  • プレシジョンヘルスケア
    • データを基に、患者一人一人の特性に合わせた治療や予防をする。
  • スマート農業
    • 農業分野でモバイル通信やAI技術を活用する。
  • コボット(Collaborative robots:協働ロボット)
    • 人間の近くで運用されることを念頭に設計されたデバイスが、倉庫、店舗フロア、病院やホテルの廊下、オフィスビルなどで稼働する。
  • 障害物検知システム
    • 自動運転車両に搭載するセンサーが周囲の物体を検知する。

6G関連の新技術開発

 インドの研究チームは、スウェーデンや米国の研究チームと連携して6G開発を進め、物理世界のセンサー情報をサイバー空間に集約して2つの空間を相互作用させる「サイバーフィジカルシステム」の実現を目指す。他にも世界中の研究チームと協力することで、以下のような6G関連の新技術開発に取り組む。

  • チャネルモデリング
    • 各無線技術に合わせて電波伝搬特性をモデル化する技術。
  • ハイブリッドビームフォーミング
    • デジタル方式とアナログ方式を組み合わせたビームフォーミング。
    • ビームフォーミングは、アンテナから出る電波の方向や出力を調整して特定の方向へ集中させる技術。受信機のある方向へ電波を集中させることで電波強度が高まる他、他の電波からの干渉を抑えることが可能。
  • 低消費電力のネットワークやコンピューティング
  • 信頼性、公平性、説明可能性が向上したAIアルゴリズム
  • インテントベースネットワーク(IBN)
    • 管理者の意図に沿って自律的に動作するネットワーク技術。
  • 統合センシングおよび通信(ISAC)
    • 従来別々の周波数帯域で動作していたレーダーと通信を、同じ波形を共有して統合する技術。通信用の電波で人や物を検出することができ、自動運転などの分野に応用される。
  • エッジコンピューティングへのコンピューティング負荷の分散

 Ericssonは無線通信やAI技術、クラウドの研究に当たりインドの各機関と提携しており、2023年9月にはインド工科大学マドラス校(IIT Madras:Indian Institute of Technology Madras)の研究センターCentre for Responsible AI(CeRAI)と5年間の提携契約を結んだ。CeRAIは「責任あるAI」(公平性や透明性、安全性の確保を考慮したAI技術)のトップクラスの研究所だ。6Gネットワークでは、物理層の信号処理へのAIアルゴリズム活用など、AI主導型の運用が見込まれる。そのためEricssonはAI技術の研究を重視する方針を取る。

 IIT Madras以外にも、Ericssonはインドにおけるトップレベルの工学研究所と提携することを目指す。同社の研究部門で責任者を務めるマグナス・フロディ氏は、「さまざまな研究所と協力してインド固有のニーズを掘り下げることで、通信技術の開発段階からインド市場におけるニーズを組み込みたい」と意気込む。

 Ericssonのインド市場責任者を務めるニティン・バンサル氏は、同社の6Gに対する考え方について、「インド政府が掲げる6Gの開発や実装における構想『Bharat 6G Vision』に合致する」と話す。Bharat 6G Visionの中心となるのは、

  • 利用したいときに場所を問わずに利用できるユビキタスな接続
  • 持続可能なネットワーク
  • 手頃な価格

という3つのポイントだ。「政府や教育機関、企業と連携してインドの6G時代を切り開いていきたい」とバンサル氏は語る。

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