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大規模再編のSAP、AI強化の前に「クラウドERP」は売れているのか?一筋縄ではいかない「SAPの方針転換」【前編】

SAPの2023年通期決算は、全体の売上高が前年比6%増と好調だった。一方、同社はAI技術を成長分野に位置付け、再編を実施すると明言した。クラウドサービス型ERPを含めて、同社の事業はどのような状況にあるのか。

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 SAPの2023年度通期(2023年1月〜12月)の売上高は約312億ユーロで、前年比6%増の成長だった。この決算発表で財務の項目以上に目を引いたのは、SAPが“戦略的な成長分野”としてAI(人工知能)技術に注力し、約8000人の雇用に影響を与える再編を実施する計画を明らかにしたことだ。注力分野だったクラウドサービス型ERP(統合基幹業務システム)を含めて、同社の事業はどのような状況にあり、今後は何を計画しているのか。

AI事業へ方針転換のSAP 「クラウドERP」は売れているのか?

 SAPの2023年度通期の業績では、クラウドサービス領域の売上高が前年比20%増の136億6000万ユーロと好調だった。主に、SaaS(Software as a Service)とPaaS(Platform as a Service)の2桁成長が貢献したと同社は説明する。クラウドサービス型ERP「SAP S/4HANA Cloud」の売上高は、同67%増の34億9000万ユーロだった。

 2023年度には、スイスの保険会社Zurich Insurance CompanyがSAP S/4HANA Cloudを導入した。英国のドラッグストアチェーンを手掛けるBoots UK、ニュージーランドのクライストチャーチ市議会、ドイツの商用車メーカーDaimler Truckは、ERPのクラウドサービス移行を支援するサービス群「RISE with SAP」を採用している。

 SAPは2024年度通期(2024年1月〜12月)の業績について、クラウドサービス領域の売上高が170億〜173億ユーロ、クラウドサービスおよびソフトウェアの売上高が290億〜295億ユーロ、営業利益が76億〜79億ユーロになると見込んでいる。

 一方、同社はAI技術への注力を明言した。これは自社製品へのAI技術導入を推進するだけではなく、社内コスト削減のためにAI技術を活用することも意味する。

 それに伴いSAPは2024年、全社規模の再編を実施する計画だ。約10万7000人の従業員(2023年10月時点)のうち、約8000人の雇用に影響を与える可能性がある。その大部分は希望退職とリスキリング(新しい知識やスキルの習得)の対象になる見通しだ。この再編計画には20億ユーロ程度の費用を要する。

 SAPの最高経営責任者(CEO)であるクリスチャン・クライン氏は、主要指標で当初の見通し以上の結果が出せたと述べる一方、「180カ国以上に展開するSAPのような巨大企業の方針を転換するのは一筋縄ではいかない」と強調。クライン氏はAI技術に10億円を投じ、同社製品にAI技術を組み込む取り組みを加速させると明らかにした。このことは、顧客企業のサプライチェーンや雇用の最適化につながると同氏は説明している。


 このようにSAPはAI技術の事業に焦点を当てているが、既存顧客に対し、SAP S/4HANA Cloudへの移行を促すことが、依然として重要であることは変わりない。後編は、クラウドサービスへの移行が進まない要因を解説する。

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