製糖会社の「S/4HANA」移行 “30年来のSAPユーザー”が直面した老朽化問題:レガシーなERPシステムからの脱却【前編】
製糖会社Florida Crystalsは古くからSAPのERPシステムを運用している。AWSのパブリッククラウドに移行してシステム設計をシンプルにする前、同社のERPシステムはどのような課題を抱えていたのか。
世界最大級の製糖会社Florida Crystalsは、オンプレミスで運用し続けてきたSAPのERP(統合業務)システムを、Amazon Web Services(AWS)のパブリッククラウドで稼働する「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)に移行した。クラウドサービスに移行したおかげで、Florida CrystalsのIT部門はインフラ管理に手間を取られることなく、業務改革とビジネスプロセス改善に専念できるようになったという。
Florida Crystalsでバイスプレジデント兼CIO(最高情報責任者)を務めるケビン・グレーリング氏は「移行プロジェクトは簡単ではなかったが、Florida Crystalsは古くからSAP製品を利用してきた企業としての経験を生かし、やり遂げた」と振り返る。
組織の成長とともに複雑化、老朽化したERPシステム
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「RISE with SAP」導入事例
Florida CrystalsのERPシステムは、関連会社を含む以下4社にまたがって利用されている。
- Florida Crystals
- サトウキビの栽培と精製を主軸とする企業
- ASR Group International
- 精製した砂糖の製品化を主軸とする企業。米国、カナダ、英国、ポルトガル、イタリア、メキシコ、ベリーズに製糖工場を構える
- Tellus Products
- 堆肥化可能な生分解性の使い捨て容器をサトウキビの繊維から製造する企業
- FCI Residential
- フロリダ州でアパートを建築して賃貸する資本多角化企業
1996年ごろ、Florida Crystalsは初めてSAPのERP製品を導入した。グレーリング氏によると、当時のIT要件とビジネスプロセスは比較的シンプルだった。「企業が成長する過程で将来のニーズを満たせるシステムが必要になる」というのが、当時のCEOの考えだったという。
Florida CrystalsはSAPの提案や製品を早くから導入していた。例えばオンプレミスシステムで稼働するERPシステム「SAP ERP Central Component」(SAP ECC)を仮想プライベートクラウドに移行した最初の事例がFlorida Crystalsだ。移行先の仮想プライベートクラウドには、クラウドサービスベンダーVirtustream(現Dell Technologies)が提供するサービスを採用した。
他にも、インメモリデータベース「SAP HANA」への移行、リアルタイム分析ツール「SAP Analytics Cloud」やサプライチェーン管理および統合事業計画システム「SAP Integrated Business Planning」の導入など、Florida CrystalsはSAPのさまざまな製品・サービスを最初期から利用する企業の一社だった。クラウドサービス「SAP S/4HANA Cloud」が、まだ「SAP Public Cloud ERP」と呼ばれていた最初期に導入した経歴もある。
2018年ごろ、Florida CrystalsはERPシステムの将来を計画するに当たり、クラウドインフラを一元化してパブリッククラウドに移行することを決めた。運用コストを削減し、ビジネスプロセスの変革に力を入れるためだ。この時点で同社はS/4HANAを使用していたが、「ビジネスプロセスが老朽化し、非効率で、結果が出るまでに時間を要していた」とグレーリング氏は振り返る。当時のERPシステムが抱えていた問題点について、「真っすぐで広くて平たんな高速道路があるのに、ビジネスプロセスだけが1970年製の自動車のような状態だった」と同氏は表現する。
ビジネスプロセス変革に専念するためにIT基盤を変革
ERPシステムをパブリッククラウドに移行する前、Florida CrystalsはIT基盤よりもビジネスプロセスの変革に時間を費やしていた。
クラウド統合プロジェクトを始めた当時、グレーリング氏は3つの異なるSAP製品を稼働させるためのインフラを運用管理していた。1つ目はVirtustreamの仮想プライベートクラウドで運用するS/4HANA(バージョン1709)で、Florida Crystalsのトランザクション(一連の処理)の約80%をここで処理していた。2つ目は、Virtustreamのクラウドサービスで稼働するレガシーERP「SAP Business Suite on SAP HANA」。3つ目はベリーズの製糖工場で運用していた「SAP Public Cloud ERP」だ。
プロジェクトの目的は、「3つのSAP用インフラを1つのパブリッククラウドインフラに統一し、シンプルにすることだった」とグレーリング氏は説明する。以前、Florida Crystalsが複数のSAPアプリケーションにまたがるプロセスを構築する必要があった際、各プロセスが連携できるように、特定のインフラをカスタマイズしなければならなかった。こうした個別のカスタマイズを不要にするため、同氏は1つの基盤となるインフラに移行することにした。「4社には部門横断的なプロセスが多数ある。これをS/4HANAだけで処理できるようになれば、格段にシンプルになる」(同氏)
稼働中のS/4HANAは現在、Florida Crystalsと契約するコンサルティング会社Lemongrass Consultingが運用管理を請け負っている。Lemongrass Consultingは、AWSや「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」(GCP)など、パブリックラウドで稼働するSAP製品・サービスの構築や運用を専門とする企業だ。
Florida CrystalsがLemongrass Consultingを選んだのは、パブリッククラウドで稼働するSAP製品・サービスの運用管理サービスに関して、当時最も包括的でコストパフォーマンスの高いサービスを提供していたのが同社だったからだという。当時のFlorida Crystalsは、SAP製品・サービスのインフラとして既にAWSを利用していた。Lemongrass Consultingは当初AWSの管理サービスのみを提供していたが、後にMicrosoft AzureとGCPのサービスも提供するようになった。
後編はFlorida CrystalsがERPシステムをモダナイズする過程で直面した「SAPのライセンス問題」について解説する。
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