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「メタバース」の熱狂が消えてしまった“当然の理由”気になるメタバースの今後【中編】

メタバースについての“一時の熱狂”はどこへ消えたのか。メタバース市場初期からの動向を振り返りつつ、今後何が起きるのかを探る。

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 一時は世界中に熱狂を巻き起こした「メタバース」について、企業も消費者も関心を失ってしまったようだ。「メタバースは死んだ」というのは行き過ぎた主張だが、以前に比べてメタバースへの人々の関心が薄れてしまっているのは明らかだ。メタバースの熱狂が続かなった背景を振り返りつつ、メタバースが今後どうなるのかを考察する。

メタバースへの関心はなぜ薄れたのか

 メタバースの普及は進んでいるものの、世間の関心が薄れつつあるのは確かだ。その背景には、次のような要因があると考えられる。

世界的な景気低迷

 世界的不況の最中、企業の消費支出は全体的に低下し、収益の見込める投資を優先せざるを得なかった。Productsupの最高イノベーション責任者であるマーセル・ホラーバック氏は「メタバースが発表されたタイミングも悪かった」と話す。

精彩さに欠いたグラフィック

 MetaのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏が自身のFacebook上で公開した「メタバースでの自撮り写真」が物議を醸したことからも分かるように、メタバースのグラフィックが現実とは懸け離れており、精彩に欠いていた。その点も、人気に火が付かなかった一因だろう。

市場に広がる悲観的な見方

 「NFT」(Non Fungible Token:非代替性トークン)市場の暴落が、メタバースにおける“デジタルアセット熱”にも影響を及ぼした。暴落に伴うメタバースベンダーの金銭的損失も、市場の展望を悲観的なものにした。Metaのメタバース関連技術への投資額は470億ドル以上に上るが、目に見える利益をもたらしていない。

 さらに、Walt Disneyをはじめとする企業がメタバース市場から撤退した影響で、メタバース市場の規模は縮小傾向にある。これは、メタバースがビジネスとして成り立つのかどうかを再評価する動きが企業の間で広がっていることを示している。

生成AIの台頭

 テキストや画像を自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)の登場と急速な人気拡大によって、世間がメタバースに向けていた関心やリソースは生成AIに移ったと考えられる。

「メタバース」にまつわる言葉の誤解

 AI(人工知能)ベンダーUnanimous AIのCEO兼チーフサイエンティストであるルイス・ローゼンバーグ氏は、「言葉にまつわる誤解も、関心低下の一つの要因だ」と指摘する。

 業界では何年もの間、没入型技術を表す際にVR/AR(拡張現実)といった用語を使用してきた。2021年10月にFacebookがMetaに社名変更したことも手伝い、業界用語としてのメタバースが大々的に宣伝された。

 ほとんどのメディアは、メタバースを「パラレルワールドを実現する仮想空間」として伝えた。VRヘッドセットで現実世界と仮想空間が融合し、誰もがメタバースの住人となって、仮想通貨を用いた決済が主流となる世界だ。しかしこのようなイメージは、Metaの趣旨とも企業のニーズとも合っておらず、結果として世間の期待はしぼんでしまった。

 いま市場は、用語としての「メタバース」から脱却し、より包括的な市場の捉え方を定義している段階だ。

 例えばAppleは、没入型技術の総称としてメタバースではなく「空間コンピューティング」を使っている。この用語は、没入型技術の日常生活への適用に焦点を当てたものであり、ローゼンバーグ氏はこの動きをポジティブに捉えている。一方で、「仮想現実や複合現実といった、市場で30年以上にわたり使われてきた用語を弾圧すべきではない」とも警告する。

 調査会社Capgemini Research Instituteの技術部門Capgeminiで体験およびイノベーション担当バイスプレジデントを務めるマイク・ブオブ氏は、言葉としてのメタバースはそろそろ終わりを迎える、と話す。「恐らくメタバースという言葉には、この先もネガティブな意味合いが付いて回るだろう」(ブオブ氏)

メタバースは結局どうなるのか

 「他の技術と同様、メタバースも典型的なハイプサイクル(調査会社Gartnerが作成している、技術の成熟度や採用度を図示したもの)の幻滅期の真っ只中にある」。こう話すのは、IT関連サービス企業TEKsystemsのラメシュ・ヴィシュワナサン氏(シニアプラクティスディレクター)だ。

 ヴィシュワナサン氏によると、初期にメタバースを受け入れたのは主に「ゲーマー」(ゲームをする人)だった。メタバースは未来的でニッチなイメージがあり、一般人はその用途すら想像できなかったという。さらに、VR(仮想現実)デバイスは重くかさばり、装着時の煩わしさがあった。「ほとんどの人は、友人との会話や会議といった用途にメタバースを使おうとは考えなかった」(ヴィシュワナサン氏)

 しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行で状況は一般する。コロナ禍で誰もがステイホームを余儀なくされた時期に、メタバースは交流の場として大きな注目を集めた。だが、ひとたびパンデミックが落ち着くと、人々は再びリアルな体験を切望するようになった。

 「メタバース市場はハイプサイクルの幻滅期を迎え、落ち着きこそ見せているものの、終わったわけではない」。こう話すのは、NASAジェット推進研究所のクリス・マットマン氏(最高技術責任者兼イノベーション責任者)だ。

 近年はビジネスシーンでのメタバース活用が進む。例えば、職場のミーティングで、「Zoom」や「Microsoft Teams」などのWeb会議ツールの代わりに、メタバースを採用するケースが広がっている。特に相手と対面でやりとりしているようなリアル性を求める人々は、以下のようなVRサービスを利用しているという。

  • Spatialの「Spatial」
  • Glue Collaborationの「Glue」
  • Metaの「Horizon Workrooms」

 次回は、メタバース市場の明るい見通しを解説する。

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