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Microsoftへの苦情「Azure以外のライセンス料が不当に高い」の真相Microsoft Azureの成長は“不正”なのか本物か【後編】

英国競争市場庁には「Microsoftが同社ソフトウェアのライセンス体系を反競争的に設定している」という報告が寄せられている。それは本当なのか。Microsoftの反論は。

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 調査会社Synergy Research Groupの推定によると、Microsoftのクラウドサービス群「Microsoft Azure」が世界各国のクラウドインフラ市場で2024年第1四半期(1〜3月)に25%のシェアを獲得し、同クラウドサービスとしては過去最高となった。

 一方で、Microsoftのクラウドサービスに関する価格やライセンス体系が反競争的であるという指摘が複数寄せられている。市場に対する取り締まりを担う英国競争市場庁(CMA)は2023年10月、英国のクラウドインフラ市場について調査した結果に関する声明を発表した。CMAは市場全体の調査結果を報告する中で、特にMicrosoft製品のライセンス料に関するある慣行を懸念材料として挙げた。Microsoftはどう反論したのか。問題の真相を探る。

「Microsoftのライセンス料は不当だ」という苦情の真相

 CMAは声明の中で、Microsoftのソフトウェアとそのライセンスの価格体系について次のように批判した。「英国情報通信庁(Ofcom)に寄せられた報告は、ユーザーがMicrosoftの競合ベンダーのクラウドインフラでソフトウェアを使用するメリットを、ライセンスの慣行によって低下させかねないと主張するものだった」

 問題は、Microsoft Azure以外のクラウドインフラで同社のソフトウェアを実行しようとすると、追加コストが発生することだ。

 「CMAは、この市場調査の一環として、この件に関連する複数のクラウドサービスベンダーのライセンス慣行の実態を調査した。これらの慣行がユーザーの競合プロバイダーの採用を阻み、その結果として競争を阻害し、クラウドサービスへの参入障壁を高めているか否かを確認すべきだと判断した」と同声明では述べられている。

 一方のMicrosoftは、同社のソフトウェアの価格やライセンス体系について提起された懸念に関して、「その信憑(しんぴょう)性は疑わしい」と主張している。同社は2023年11月に公開したCMAへの回答で、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会に寄せられた苦情を受けて、2022年にライセンス慣行を変更したと述べた。

 「このライセンス体系の変更によって、Microsoftのソフトウェアを、Microsoft Azureで利用する場合でも、ハイパースケーラー(大規模データセンターを運営するクラウド企業)ではない他のベンダーのクラウドインフラで利用する場合でも、同等の経済性が顧客に与えられることになった」

 Microsoftは2019年にもライセンス慣行を変更しているが、その変更は「小規模クラウドベンダーのビジネスモデルを不用意に混乱させた」とMicrosoftが認めた形だ。

 「2022年のライセンス変更は、(小規模クラウドベンダーから)提起されていた苦情を解決するもので、英国を含む全世界に適用される」と、Microsoftは述べている。

ユーザー企業の追加支出は「年間数十億ポンド規模」との指摘も

 Microsoftがライセンスを変更した後でも問題は解決していない。

 欧州のクラウドサービスの業界団体「CISPE」(Cloud Infrastructure Services Providers in Europe)が2023年6月に発表した調査によれば、Microsoftのライセンス戦術によって、既に所有しているソフトウェアをMicrosoft Azure上で動かすために欧州の企業や公共機関が強いられている追加支出は、毎年数十億ポンドに上るという。

 2022年11月、CISPEは欧州委員会の実務担当部局である競争総局(DG COMP)に対して、Microsoftに関する苦情を正式に申し立て、同社の反競争的とみられるライセンス慣行について調査を開始するよう求めていた。

 しかしMicrosoftは、先述の2023年11月に公開したCMAに対する回答書を通じてCISPEに反論し、Microsoftは自社のソフトウェアを「当該ハイパースケーラーが希望する条件」に従って、世界各国の競合クラウドベンダーのサービスで利用できるようにしていると主張した。さらにCISPEがMicrosoftの主要なライバルであるAmazon Web Services(AWS)から資金提供を受けていると指摘して、CISPEを非難した。

 Microsoftは、次のように主張した。「CISPEが追求している問題は、基本的にハイパースケーラー間の商業的取り決めに関するものだ。CMAが検討している、より広範な業界全体の問題への注目をそらすリスクがある」

 このように、CISPEの懸念を真剣に検討していないように見えたMicrosoftだが、2024年2月には一転して「不公正なソフトウェアライセンス」慣行に関して続いている懸念を解決すべく、CISPEと協議を開始した。

 この展開に対し、Microsoftの広報担当者は、「欧州のクラウドベンダーから提起された懸念を解決するために、CISPEと建設的な取り組みを続けている」と英Computer Weeklyに説明した。ただし、CISPEと協議を始めたきっかけについて、Microsoftは詳細を明らかにしていない。

 かつて英国の内閣府でICT責任者を務めていたニッキー・スチュワート氏は、次のように述べる。「MicrosoftとCISPEが協議を開始したことは前向きな兆候だ。とはいえ、この対話の結果がどうなるかはまだわからない」(スチュワート氏)

 スチュワート氏は続ける。「Microsoftがクラウドサービスベンダーや地域によって違いを設け、さまざまな国で不当なライセンス慣行を実施するのをやめるまで、欧州委員会とCMAの双方が調査を継続することを私は期待している。裏取引を経た規制を認める余地はない」

 「MicrosoftがCISPEと対話の機会を持ったことは、Microsoftが自社のライセンス慣行を反競争的と認めているとも考えられる」とカリフォルニア大学バークレー校の情報学部大学院教授のスティーブ・ウェバー氏は指摘する。

 「規制当局からの圧力を和らげるためにMicrosoftが舞台裏で少しずつ取り組みを進めているという事実は、極めて複雑で差別的なライセンス慣行が市場競争を阻害していると認めていることに他ならない」(ウェバー氏)

 ウェバー氏は次のように述べる。「顧客や競争相手によって異なるライセンス体系を設定することが、なぜ合理的で正当な商慣行なのか、Microsoftはその理由を明確かつシンプルな言葉で率直に説明する必要がある」

 オープンな場でこのような議論をする必要があるのは、非公開にすれば顧客や競合他社ごとに異なるライセンス条件を設定する余地をMicrosoftに与えてしまうからだという。同氏はオープンな場での議論について次のように続ける。「最終的な解決策や合意は、Microsoftの優遇対象だけでなく、全ての顧客や競合他社が、グローバルに公平な条件に置かれるものでなければならない」

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