検索
特集/連載

「従業員監視ソフトウェア」が招く効率化どころじゃない“仕事中毒”の弊害デバイスを監視する“ボスウェア”の全て【前編】

「ボスウェア」は、雇用主が従業員のデバイスにインストールし、行動を監視するものだ。使い方によっては良い影響と悪い影響の両方をもたらす。知っておくべきボスウェアの影響とは。

Share
Tweet
LINE
Hatena

関連キーワード

人事


 「ボスウェア」は、雇用主が従業員のデバイスにインストールするソフトウェアだ。「従業員監視ソフトウェア」「生産性監視ソフトウェア」と呼ばれることもある。ボスウェアは、AI(人工知能)技術を活用して従業員の行動の詳細を明らかにし、従業員監視の精度を向上させる。これには良い影響と悪い影響の両方がある。従業員にどのような影響があるのか。

ボスウェアが“仕事中毒”や“燃え尽き症候群”を招く?

 雇用主は、従業員の生産性の監視、データ漏えいの回避、内部関係者による不正への警戒などにボスウェアを活用可能だ。企業が採用するボスウェアは、専用のソフトウェアの場合もあれば、ソフトウェアパッケージの一機能である場合もある。コラボレーションツール「Microsoft Teams」やオフィススイート「Google Workspace」には、エンドユーザーがオンライン状態かどうかを示す監視機能がある。

 ボスウェアという言葉には否定的な意味合いがあり、しばしば従業員の合意を得ていない、過剰な監視を指す。スパイウェア(エンドユーザーの行動に関する情報をひそかに収集し、外部に送信するマルウェア)に例えて、従業員に過剰に干渉する監視ツールを批判する際にも用いられる表現だ。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)に伴ってボスウェアは普及した。当時の雇用主は、コミュニケーションツールや勤務時間が異なるテレワーカーをまとめて監視する方法を必要としていた。

 ボスウェアには負の影響もある。監視されることに慣れた従業員は、監視のプレッシャーがない状態では仕事のスキルが向上しなくなる恐れがある。従業員のデータを過剰に収集した雇用主が、生産性の基準を達成できていないことを理由に、自動的に従業員を解雇する判断もあり得る。収集した機密データが漏えいする可能性もあり、例えば、ボスウェアに含まれるキーロガーがパスワードを記録し、機密データが間接的に露出しかねないことも懸念点だ。

 従業員が同意している範囲を超えた監視は、信頼の低下を招く。そうした監視は時間をかけて考えずに、絶えずデバイスで何らかの作業をする“仕事中毒”をもたらす恐れがある。仕事中毒は最終的に、燃え尽き症候群やウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)の低下の一因になる。

 一方、ボスウェアを適切に活用すれば、従業員の生産性を向上させたり、内部関係者による不正やヒューマンエラーのリスクを防いだりすることも可能だ。

ボスウェアは何をするのか

 ボスウェアは、デバイスを通じて従業員を継続的に監視し、データを収集する。その際、収集したデータから的確な洞察を得るためにAI技術を活用することがある。そのようにして得た洞察を、従業員の生産性の分析、ランク付け、レポートに用いることも可能だ。用途として挙げられるのは、出勤状況、出勤時間、生産性の確認だ。従業員一人一人に対し、毎日、生産性のスコアを付けるボスウェアもある。

 従業員が使用するデバイスに対して、ボスウェアは以下を記録、取得する機能を持つ。

  • アプリケーション
    • 従業員がデバイスで使用したアプリケーションを記録する。
  • Webサイト
    • 従業員が訪問したWebサイトとその頻度を記録する。
  • キー入力
    • 従業員のPCでのキーボード操作を記録する。
  • メール操作
    • 従業員のメールクライアントでの入力を記録する。
  • コンソールコマンド
    • 従業員がコンソールに入力したコマンドを記録する。
  • 生産性
    • 監視対象の従業員ごとに生産性の指標を可視化する。
  • スクリーンショット
    • 従業員のデバイスの画面表示を記録し、スクリーンショットを撮ることができる。
  • マウス操作
    • 従業員のマウス操作を記録する。
  • 音声
    • 従業員のデバイスのマイクを通じて音声を録音する。
  • 録画
    • 従業員のデバイスのWebカメラを使用して従業員を録画できる。
  • ソーシャルメディアの使用状況
    • 従業員が使用しているソーシャルメディアとその使い方、使用時間を把握できる。
  • オンライン時間
    • 従業員がデバイスをオンラインにしている時間と休憩時間を記録できる。
  • チャット内容
    • 従業員がインスタントメッセージでやりとりしたチャットの内容を記録できる。
  • 位置情報
    • 従業員のデバイスの地理上の位置を監視できる。

 この他、従業員のデバイスに対する操作や、デバイスの状態に基づく操作として以下を実行可能だ。

  • 管理者への通知
    • 従業員のデバイスに指定した種類のデータが表示されると、管理者に通知が届くように設定できる。
  • 従業員への通知
    • 会社のポリシーに違反した際や、管理者が監視中であることを従業員に知らせたい場合に、従業員に通知できる。
  • ロックアウト
    • デバイスで不審な行動を検出した場合、その従業員をデバイスからログアウトさせることができる。
  • サイレントモードでのインストール
    • 従業員に分からないように、ボスウェアをインストールできる。
  • 書類のスキャン
    • OCR(光学式文字認識)を活用し、従業員の書類をスキャンしてデータ化できる。
  • リモート制御
    • 管理者がデバイスを制御、操作できる。
  • ファイル検索
    • 従業員が作成したデータを、ファイルの種類を指定して管理者が検索できる。

 次回は、雇用主がボスウェアを導入したいと考える理由に迫る。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る