SAP ERPのクラウド化を促す「RISE with SAP」が不人気な理由:RISE with SAPの現状と今後【前編】
SAPのクラウド移行支援サービス群「RISE with SAP」は、顧客企業に受け入れられているとは言い難い。顧客企業はRISE with SAPに対してどのような懸念や不満を抱いているのか。
ERP(統合基幹業務システム)パッケージベンダーのSAPが「RISE with SAP」を発表したのは2021年のことだった。RISE with SAPは、ERPパッケージ「SAP S/4HANA」を含めて、SAPのオンプレミス型ERPパッケージからクラウドサービス型ERP「SAP S/4HANA Cloud」への移行を支援し、顧客企業が選んだクラウドサービスで利用できるようにするサービス群だ。SAPのその戦略は、順風満帆とは言い難い。同社は移行の必要性と、RISE with SAPが“正規”の移行方法であることを、依然として顧客企業に納得させるのにてこずっている。同社の戦略は顧客企業の目にどう映っているのか。
なぜ顧客企業はRISE with SAPを受け入れないのか
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RISE with SAPへの懸念
RISE with SAPの発表以来、SAPは顧客企業にクラウド移行を促すための「アメとムチ」として、RISE with SAPに関する以下のさまざまな特典を提供している。
- SAP S/4HANAをオンプレミスシステムで運用する顧客企業向けに、移行費用を割り引くキャンペーン
- クラウド移行にかかるコストとROI(投資利益率)を可視化するプログラム「RISE with SAP Migration and Modernization」
- 1000件以上の事例に基づく移行ガイド「RISE with SAP Methodology」
同時にSAPは、RISE with SAPを利用するよう顧客企業にプレッシャーを掛けている。同社はテキストや画像などを自動生成する人工知能(AI)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)やサステナビリティー(持続可能性)レポーティングなどの新機能を、SAP S/4HANA Cloudのみで提供することを示唆した。
SAP S/4HANA Cloudへの移行に備える顧客企業が、移行手段としてRISE with SAPを選ぶかどうかは確実ではない。ドイツ語圏のSAP顧客企業団体Deutschsprachige SAP-Anwendergruppe(DSAG)は2024年1〜2月に、SAP顧客企業に勤務する228人に対して調査を実施した。調査結果によると、同年にSAP製品への投資額を増やしたいと考える回答者は46%だった。この数字は2023年の52%よりは少ないものの、顧客企業にSAP S/4HANA Cloudへの投資意欲はあると言える。
だがSAP S/4HANA Cloudの戦略に対する顧客企業の疑問は解消されておらず、RISE with SAPが普及しているとは言えないようだ。DSAGの調査では、RISE with SAPの利用について調査対象者の61%が「計画していない」と答えた一方で、「利用中もしくは利用見込み」と答えたのは16%だった。8%は「RISE with SAPを知らない」と回答した。
DSAGの調査からは、RISE with SAPに対する顧客企業の懸念が他にもうかがえた。以下に例を示す。
- 費用対効果の不透明さ
- 試行作業の増加
- 拡張への選択肢の少なさ
- 出口戦略の欠如によるSAPへの依存度
DSAGの会長であるイェンス・フンゲルスハウゼン氏は、調査対象者が勤務する企業がSAPのERP製品をオンプレミスシステムで使用し続けたいと考えているとみる。「調査時点では、顧客企業はクラウドサービスへの移行にメリットを感じておらず、SAPへの不信感を表すものもあった」とフンゲルスハウゼン氏は述べる。
次回は、RISE with SAPの今後の展望について考察する。
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