生成AIブームに冷や水を浴びせる「第3のAIの冬」がやってくる理由:「生成AI人気の終わり」に備える【前編】
生成AIブームが熱を帯びる一方で、世間の関心が失われる「幻滅期」の到来は避けられないという見方がある。生成AIへの関心はなぜ薄れてしまうのか。生成AI市場は今後どうなるのか。
テキストや画像を生成する人工知能(AI)技術である「生成AI」に関心に寄せる企業は、ビジネスにおける生成AI活用のための投資を進めている。一方で、このブームがいつまで続くのかについては注意が必要だ。後述する「第3のAIの冬」がやって来るという見方があるからだ。
AI市場では過去にも、ブームと、世間の関心が薄れる「幻滅期」が繰り返されてきた。今回の生成AIブームについても、幻滅期の到来は避けられないと専門家は予測する。それはなぜなのか。幻滅期に突入した生成AI市場の今後は、一体どうなるのか。
「第3のAIの冬」はなぜやって来るのか?
AI技術の歴史は半世紀以上前にさかのぼる。1960年代、パズルや推論など単純なタスクをこなせるAI技術が登場し、大きな話題を呼ぶ。しかし、技術的な限界からAI技術の成長は鈍化する。
1970年代から1980年代にかけて、AI技術に対する世間の関心は薄れ、投資が停滞する「AIの冬」が訪れる。1973年、数学者であるジェームズ・ライトヒル氏は、「AI技術は実用性に乏しく、ただの遊び道具に過ぎない」という旨の報告書を英国議会に提出している。
1980年代初頭、エキスパートシステム(専門家のように受け答えできるシステム)や、それを動かすためのプログラミング言語「LISP」の技術革新が起きたことで、AI技術への世間の関心が復活する。ところが、他のプログラミング言語の台頭といった要因から、LISPを手掛けるスタートアップ企業は次々と失敗し、AI市場は再び冬の時代を迎えることになる。
厳しい状況下でもAI技術の研究は進み、2022年にはAIベンダーOpenAIがAIチャットbot「ChatGPT」を発表。3回目のAIブームが巻き起こる。2024年現在、さまざまな企業がビジネスにおける生成AI活用法を見出そうと模索している状況だ。
企業の期待に応えられない生成AI
生成AIは期待通りの成果を必ず出せる「万能薬」ではない。高過ぎる期待値と現実のギャップから、企業の戦略再編と投資削減が進み、「第3のAIの冬」が訪れる可能性がある。
専門家たちは、生成AIが企業の期待に応えられていない現状とその原因を指摘している。例えば以下のようなものだ。
「AIは賢い」という勘違い
AI分野の先駆者である認知科学者のゲイリー・マーカス氏は、生成AIで期待する成果を挙げられない根本的な問題として、「生成AIは『汎用(はんよう)人工知能』(AGI)、つまり人間と同等に賢い存在だという誤った認識が広まったこと」を挙げる。
マーカス氏は、MicrosoftとOpenAIが計画する1000億ドル規模のデータセンター建設プロジェクトについて取り上げ、「失敗に終わる可能性がある」と言及している。
目的のない生成AI導入
「生成AIで全ての問題を解決できる」という非現実的な期待が、結果として失望や不満を引き起こしてしまう。こう指摘するのは、分析ツールベンダーSAS Instituteのウド・スグラボ氏(アプライドAIおよびモデリングR&D担当バイスプレジデント)だ。
特に注意が必要なのは、性急にAI導入を進める企業だ。明確な目標がない状態でAI導入を進めると、人的リソースや予算の無駄遣い、チームの混乱といった問題を招きやすい。生成AIの回答の信頼性確保やバイアス(偏見)軽減、プライバシー保護措置などが不十分な状態でプロジェクトを進行すると、企業の信頼が失われるリスクもある。
一方で、「期待と現実のギャップは必ずしも悪いことではない」とスグラボ氏は主張する。生成AIの能力やその限界を理解するためには、多少の痛みを伴ったとしても、投資の再編や機会の探索が必要となる。「新興技術の導入時には避けられないことだ」(同氏)
生成AIの受け入れ態勢不足
内部監査ツールベンダーAuditBoardでエンジニアリング、AIおよび機械学習担当バイスプレジデントを務めるアントン・ダム氏は、所有しているものの、ほとんど使用しないソフトウェアの存在を指摘する。
企業が社内に新しいソフトウェアを導入すると、エンドユーザーは最初は熱心に使用する傾向にある。しかし、適切な変更管理を実施しないとその使用率は減少し、エンドユーザーは導入前の業務習慣に戻ってしまうことが往々にしてある。
「AI技術に対する世間の期待は非常に高い」とダム氏は話す。AI技術自体は、企業の期待に応えられる可能性を秘めている。一方で、企業の資金調達や受け入れ態勢は追い付いておらず、そのギャップが、新しいAIの冬を引き起こす可能性があるという。
生成AIの「幻滅期」に肯定的な意見も
ほとんどの技術は、初期は緩やかに成長し、急速な発展を遂げた後、最終的に安定期に到達する。生成AIの発展のスピードもやがて落ち着くことは避けられない。
ITコンサルティング企業LTIMindtreeでチーフビジネスオフィサーを務めるロヒト・ケディア氏は、「PCやクラウドコンピューティングと同様、生成AIも目新しいものではなく、日常的な技術になるだろう」と話す。
生成AIの幻滅期に肯定的な見方を示す専門家もいる。困難な時期を経験することで、技術的な問題点の洗い出しや改善が進み、長期的に安定した技術として確立される可能性があるからだ。
データ共有プラットフォームベンダーInruptのダビ・オッテンハイマー氏(トラストおよびデジタル倫理担当バイスプレジデント)は、「幻滅期はただの停滞ではなく、生成AIがさらなる進化を遂げるための準備期間として捉えることができる」と話す。
次回は、企業は生成AIの幻滅期をどう乗り切ればいいのかを解説する。
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.