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Pythonの「GIL」がなくなるのはメリットばかりではない理由Python破滅への一歩か?【前編】

「Python」におけるマルチコアCPUの利用を妨げているのが「GIL」だ。GIL廃止の提案が承認されたことで積年の課題が解決する見込みが出てきた。一方、「混乱が起きる可能性がある」と指摘する有識者もいる。

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 プログラミング言語「Python」の問題の一つは、複数のCPUコアを効率的に利用することが制限されている点だ。これは主にCPython(Pythonの標準実装)が持つ「GIL」(Global Interpreter Lock)という仕組みに起因する。

 マルチコアCPUを最大限に活用できないことは、Pythonのパフォーマンスに制約をもたらす。これは、Pythonが他のプログラミング言語と比較して、特定の並列処理の実行速度が遅くなることがある一因だ。

 この問題について、開発者たちはPythonのスチュワード(世話役)にGILを修正するよう懇願してきた。その流れを受けて、Pythonの新機能や仕様に関する提案文書「PEP 703」には、段階的にGILを廃止する提案が盛り込まれた。2023年1月にPython運営委員会がPEP 703を承認したことによって、PythonからGILが取り除かれる可能性が出てきた。

 だが、この方針は不適切だと筆者は考える。PythonからGILを取り除くのは“破滅的行為”だからだ。

GILを廃止するのは間違い?

 CPythonが実行するPythonプログラムは、安全なシングルスレッドでの実行を前提としている。PythonからGILを取り除けば、その前提が崩れることになる。既存のPythonライブラリ(プログラム部品群)やPythonプログラムのうち、マルチスレッド処理の影響を受ける可能性があるものは、テストをやり直したり、場合によってはソースコードを書き直したりしなければならない。

 GILが存在するバージョンから、GILが存在しないバージョンにPythonランタイム(実行環境)を移行している間は、「GILがあるランタイム用」と「GILがないランタイム用」の2つのバージョンを管理しなければならない可能性がある。こうした状況は、ソフトウェアのメンテナンスを今以上に複雑にするはずだ。

 PythonからGILを取り除く影響は、Pythonプログラムだけにはとどまらない。Pythonは入力データを整形し、マルチコアスレッド処理が可能なプログラミング言語(例えば「C++」「Java」など)で作成した関数にデータを受け渡す役割を担うことがある。それらの外部関数の中には、安全なシングルスレッドでの呼び出しを前提にしているものがある。そのため、Pythonと連携するプログラムも、追加のテストや修正、メンテナンスが必要になる場合がある。


 次回も引き続き、GILの廃止で想定される影響について考察する。

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