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AMDの狙いはNVIDIA追撃か、Intel対抗か? ZT Systems買収の思惑AI分野での攻勢が鮮明に

AMDは、サーバやAIインフラの設計・製造を手掛けるZT Systemsを約50億ドルで買収する。AMDの競合となるNVIDIAやIntelに対して、AMDはこの買収を経てどのような戦略に出るつもりなのか。

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AMD | 人工知能 | GPU | Intel(インテル) | CPU


 半導体ベンダーであるAdvanced Micro Devices(AMD)は、AI(人工知能)関連の需要が引き続き高まる中でどのような戦略に打って出るつもりなのか。AMDはサーバやAIインフラを手掛けるZT Systemsを49億ドルで買収する計画を2024年8月に発表し、企業買収による攻勢を強めている。この買収は、NIVIDIAやIntelといった競合との競争にどのような影響を及ぼすのか。

AMD「ZT Systems買収」の狙いは?

 半導体ベンダーAdvanced Micro Devices(AMD)は2024年8月19日(米国時間、以下同じ)、サーバベンダーのZT Systemsを49億ドルで買収する計画を発表した。2025年前半に買収が完了する見通しだ。ZT Systemsは、大規模データセンターの運営事業者(ハイパースケーラー)向けのAI(人工知能)システムや、クラウドインフラの設計や製造を手掛けている。

 AMDのCEOリサ・スー氏は、「今後は単にハードウェアを納品するだけではなく、AIシステムの設計や本番環境へのスケールアップを支援できる半導体ベンダーが求められるようになる」と語る。背景にあるのは、AIモデルの学習や推論のために数万基のGPUが稼働するデータセンターでは、インフラやAIシステムの設計がますます複雑になっていくことだ。

 スー氏によると、一般的な企業では、GPU(グラフィックス処理装置)の試験運用から本番環境でのAIシステムの運用開始までに数四半期ほどかかる傾向にある。ZT Systemsを買収することで、AMDはその支援を加速させられるようになると強調する。

 ZT Systemsは、AMDの大口顧客におけるAIインフラの設計を支援する。一方のAMDは、AIインフラ用にGPU(グラフィックス処理装置)やCPU(中央演算装置)を最適化して提供すると、スー氏は説明する。ZT SystemsはAMDの半導体製品だけを扱うのではなく、AMDの競合ベンダーの半導体製品を希望する企業向けの支援も継続するという。

 一部のハイパースケーラーはシステム設計においてさまざまな最適化を望む傾向にあるため、その要望に応えることがAMDの目指す方向性だ。「顧客の選択肢を奪うつもりはない」とスー氏は語る。

 AIアクセラレーター(AI関連の演算処理を高速化するためのハードウェア)のベンダーとしては、AMDの事業規模は同業NVIDIAのそれよりも規模が小さい。だがZT Systemsを買収することで、AIプロセッサ分野におけるAMDの存在感は大きくなる可能性がある。

 ただしこの買収による相乗効果はそれだけではない。ZT Systemsは、AI向けではないCPUベースのシステムの設計や製造も手掛けている。「ZT Systems買収は、AMDがデータセンター向け市場でIntelよりも優位に立つのに役立つ可能性がある」。調査会社J.Gold Associatesのアナリスト、ジャック・ゴールド氏はそう指摘する。サーバ向けプロセッサとしては、AMDは「EPYC」シリーズに注力している。同じくサーバ向けプロセッサであるIntelの「Xeon」シリーズに対抗するために、AMDはZT Systemsと組んでEPYCシリーズの売り込みに注力する可能性も考えられる。

 「ZT Systemsは非AI関連の製品群も手掛けているので、AMDはこの買収によって対Intelの競争力強化を狙っている可能性もある」と、ゴールド氏は述べる。

 データセンター向け市場で今後需要が伸びると考えられるのは、CPUよりもAI向けのGPUだ。AMDはAI向けGPU市場でのシェア拡大を目指し、AIアクセラレーターの新製品投入を加速させている。AMDは2023年12月、大規模データセンター向けのAIアクセラレーター「Instinct」シリーズの第1弾となる「Instinct MI300」を発表した。2026年には、大規模なAIモデルの学習や推論用の「Instinct MI400」を市場投入する計画だ。

 スー氏によると、AMDはZT Systemsを買収した後に、ZT Systemsのハードウェア製造部門を売却する計画だ。ZT Systemsの売上高のうち、大部分を占めるのが製造部門となっている。AMDは、ZT Systemsの約2500人の従業員のうち、約1000人の雇用を維持する。その人件費は1億5000万ドルほどになる見通しだ。ZT SystemsがAMDの売上高に貢献するのは、2026年からになるとみられる。

 買収後、ZT SystemsはAMDのデータセンター事業グル部門の傘下に入る。ZT SystemsのCEOフランク・チャン氏がAMDの製造事業の指揮を執り、ZT Systemsのプレジデントであるダグ・ホワン氏が、AMDのシステム設計チームを引き継ぐ。

 AMDは、ZT Systemsの買収計画を発表する直前に、6億6500万ドルを投じたSilo AIの買収を完了した。フィンランドの民間AI研究所であるSilo AIは、自律走行車、製造、スマートシティー向けのAIサービスを開発している。

 ZT Systemsの買収は、AMDのこれまでの買収の中で最大級だ。AMDは2022年に500億ドルでXilinxを買収した。Xilinxは、CPUを単一のLSI(大規模集積回路)に実装したマイクロプロセッサをカスタマイズできる“プログラミング可能な集積回路”のベンダーだった。AMDは2022年にはPensandoを19億ドルで買収した。Pensandoは、CPUの負荷をオフロードする、データ処理に特化するデバイス「DPU」(データ処理装置)を手掛けていた。

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