Intel×AMDの牙城崩壊? 見えてきた「x86時代の終わり」:PCやスマホに影響?
IntelとAMDが結ぶ「x86同盟」。これはハードウェアとソフトウェアの互換性向上に主眼を置くものだが、その背景には、両社にとってはNVIDIAが躍進してきた以上に穏やかではない勢力図の変化がある。
半導体ベンダーのIntelとAdvanced Micro Devices(AMD)は、x86(IntelのCPUが起源の命令セットアーキテクチャ)の関連企業で結成する団体「x86 Ecosystem Advisory Group」を、2024年10月に立ち上げた。この団体は、x86プロセッサを使ったシステムにおける互換性向上を目的の一つにするものだが、ここにきて“x86同盟”を組む狙いはどこにあるのか。業界関係者が指摘するのは、半導体業界における勢力図の変化だ。
x86時代を終わらせる“刺客”
Intelは1978年にx86を開発し、後にライセンスをAMDに供与した。これによりAMDはx86チップの製造と販売を手掛けるようになった。だが同じx86であっても、互換性が完全に保証されているわけではない。
「Intel製のプロセッサなのかAMD製のプロセッサなのかに関係なく、双方のシステムで全てのアプリケーションを問題なく実行できるのかという問い合わせがよくある」。調査会社J.Gold Associatesの創設者でありプリンシパルアナリストであるジャック・ゴールド氏はそう話す。x86 Ecosystem Advisory Groupが目指すのは、そうした問い合わせに対して「できる」と言い切れるようにすることだ。
x86 Ecosystem Advisory Groupの創設メンバーには、以下のITベンダーが名を連ねている。
- Broadcom
- Dell Technologies
- HPE(Hewlett Packard Enterprise)
- HP
- Lenovo
- Microsoft
- Oracle
- Red Hat
ライバルはNVIDIAではなくArm
IntelとAMDがここにきて徒党を組む背景には、プロセッサ市場での勢力図の変化がある。AI(人工知能)技術のニーズが高まる今、名実ともにプロセッサ市場をけん引しているのはNVIDIAだ。ただし業界の専門家は、x86 Ecosystem Advisory Groupの目的はNVIDIAに対抗することではなく、むしろArmの勢力拡大に対抗するものだとみている。
「x86は守勢に回っているが、そのプレッシャーをかけているのはNVIDIAではなくArmだ」。調査会社Futurum Group傘下のThe CTO Advisorの社長を務めるキース・タウンゼンド氏はそう語る。“NVIDIAではなくArm”が意味するのは、x86 Ecosystem Advisory Groupの焦点はAI向けのプロセッサではなく、より普遍的に使われるプロセッサに当たっているということだ。
Armの勢力拡大の一例として、調査会社Futurum Groupのアナリストであるラス・フェローズ氏は、複数のクラウドベンダーが独自のArmプロセッサ(Armが設計したアーキテクチャを採用したプロセッサ)を開発し、使用している。
Appleは「Apple M1」など自社開発のArmプロセッサ「Apple M」シリーズを、クライアントデバイス「Mac」シリーズに搭載しているし、GoogleのOS「ChromeOS」を搭載するクライアントデバイス「Chromebook」でもArmプロセッサが使われている。スマートフォンやPCの分野で、Armの勢力は拡大しているのだ。「Armの勢いはさまざまな分野で明らかに増している」とフェローズ氏は語る。
ゴールド氏によると、Armプロセッサは企業向け市場ではほとんど存在感がないものの、大規模なデータセンターを運営するハイパースケーラーの市場ではよく使われている。Amazon Web Services(AWS)やGoogle、Microsoft、Oracleなどのクラウドベンダーは、自社のクラウドサービス向けの独自のArmプロセッサを開発している。
大手クラウドベンダーがArmベースの独自プロセッサを採用する背景には何があるのか。「Armがアーキテクチャをライセンス供与し、それぞれの企業での自社開発を促していることだ」と、ゴールド氏は語る。
x86同盟のメリット
ゴールド氏によると、AMD製プロセッサで構築されたアプリケーションをIntel製プロセッサのシステムで実行する場合、あるいは逆の場合には、アプリケーション側の変更が必要になることがある。そうした調整作業が完全になくなることは、エンドユーザーにとっても開発者にとっても朗報だ。
IntelはOEM(相手先ブランド製造)市場で支配的な立場を保持している。例えばDell Technologiesのサーバ製品を見ると、Intel製プロセッサを搭載したサーバは豊富だが、AMD製プロセッサを搭載したサーバはまだ豊富ではない。
IntelとAMDが提携することで相互運用性の全ての問題が解決するわけではないが、幾つかの問題は解決できるはずだ。「Intel製とAMD製プロセッサを搭載したサーバを併用している企業は、システム環境全体で運用モデルに一貫性を持たせることができる」と同氏は語る。
Intelの課題と今後の競争
IntelはAIアクセラレーター(AIの処理を高速化するために設計されたハードウェアまたはソフトウェアの)市場でもNVIDIAに対して劣勢であり、時価総額でAMDにも抜かれている。2024年8月には全従業員の約15%、約1万5000人のレイオフ(一時解雇)計画を発表した。2024年12月には、パット・ゲルシンガー元CEOが退任する結果になった。
とはいえ業界の専門家らは、x86 Ecosystem Advisory Groupの設立と、Intelの財務問題に直接的な関係はないとみている。「顧客企業が長期にわたって何を求めているのかがより根本的な問題だ」(タウンゼンド氏)
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