「米国製なら安心」は思考停止 2026年、情シスを襲う“9つの激変”と生存戦略:2026年のAPACのITトレンド9個【前編】
AI技術が進化する中で、企業はどのようにITシステムを刷新していくべきか。さまざまなITベンダーのトップへのインタビューを基に、2026年の日本やAPACのITトレンドを9つ取り上げる。
「とりあえずAWSかAzureを選んでおけば、社内への説明もつくし間違いないだろう」。もしあなたが2026年のシステム刷新計画において、これまで通りの“米国ベンダーありき”の選定を進めているなら、一度立ち止まる必要があるかもしれない。
AI技術の実装やインフラ投資において、潮目が変わりつつある。日本を含むアジア太平洋(APAC)地域では、コスト効率やデータ主権の観点から、米国主導のテクノロジー依存からの脱却、すなわち「自律的なIT戦略」へのシフトが鮮明になると予測されているからだ。
本稿は、主要ITベンダーの経営層への取材に基づき、2026年に情シスが直面するであろう市場の変化を「9つのトレンド」として整理した。
1.米国主導だったAI技術がより“ローカル”へ
Salesforce ASEANでソリューション担当バイスプレジデント兼最高技術責任者(CTO)を務めるギャビン・バーフィールド氏によると、新年には東南アジア市場でAI技術のローカライズと実用性が一段と進み、地域特有の用途に応じたAI製品の選択肢が増えるという。
これまでのAI製品やサービスは、提供開始初期は英語での提供を前提として、技術を適切に機能させることに重点が置かれていた。「これからはASEAN特有の多様な言語でAI技術を利用可能にするための、ローカライズへの投資が拡大する」と、バーフィールド氏は言う。「地域の言語や文化的な背景を反映して微調整されたAIモデルは、より正確で文脈に即した回答を提供し、顧客体験を向上させ、特定の地域で真のビジネス価値を生み出す」(同氏)
バーフィールド氏は、グローバルな大規模言語モデル(LLM)のローカライズが進むと同時に、地域や業界特化型の小規模言語モデル(SLM)が登場し、ユーザー企業の多様なニーズや地域ならではの課題に応えるようになると予測する。同氏はSalesforceが提供するAIサービス群「Agentforce」を、タガログ語やタイ語、ベトナム語、マレー語(Bahasa Melayu)、インドネシア語(Bahasa Indonesia)などの東南アジア言語で利用可能にしていると補足した。
2.APACは世界のデータ基盤になる
APACは世界経済成長の主要な原動力になっている。近年はデータセンターや海底ケーブルといったITインフラへの投資が増加している。
ネットワークインフラ企業Lightstorm Telecom Connectivityのマネージングディレクター兼グループCEOであるアマジット・グプタ氏は、2025年7月に開通した「Southeast Asia-Japan Cable 2」(SJC2)などの新たな大容量海底ケーブルの稼働で、東アジアや東南アジアの各地域の接続性がさらに向上すると指摘する。SJC2は日本やシンガポール、香港などのアジア10拠点を結び、全長1万500キロ、最大126T(テラ)bpsの容量を持つ。
「2025年から2026年にかけて、このように高密度化した海底ケーブル網は、分離されたプライベートネットワークや、セキュリティの高いインフラへの期待を自然と高めるだろう」とグプタ氏は述べる。「AIワークロードや国境を越えた処理の増加が、この流れをさらに後押しする。海底ケーブルの拡張が進む中で、ユーザー企業はAPAC全域にわたるゼロトラストに準拠した接続性をますます求めるようになる」(同氏)
3.AI技術を用いたソフトウェア開発が人材構成の再調整を促進
コード検証ツールを提供するSonarSourceで、日本およびAPACのバイスプレジデント兼マネージングディレクターを務めるマーカス・ロー氏によると、IT業界で大規模なレイオフが相次いだ後、2026年に向けて新年には同地域のIT人材が再調整されることになると予想する。
ロー氏は、AI技術によってコーディングの参入障壁が下がり、エンジニアとしてのキャリアを持たない人々にとってもソフトウェア開発が身近になりつつあると指摘する。AIコーディング支援ツールは、自然言語による指示を通じてコードの生成やテスト、改良ができるようになっている。そのためコーディング経験がほとんどない人でも、デジタル製品の開発に貢献できるようになる。
「これに伴い、AI技術で生成するコードの“量”よりも、その“出力を検証すること”に重点が置かれるようになるだろう」とロー氏は付け加える。「2026年は、ソフトウェア開発でAI技術と競い合うのではなく、AI技術と協働しその成果物を検証する能力が、IT業界の雇用と成長を左右する決定的なスキルになる」
4.オブザーバビリティはエンジニアリングの枠を超える
アプリケーションパフォーマンス管理(APM)ツールベンダーNew Relicのプロダクトマネジメント担当シニアディレクターであるピーター・マレラス氏は、オブザーバビリティ(可観測性)がエンジニアのシステム監視業務の枠を超え、システムの信頼性やレジリエンス、競争優位性を実現する基盤になると見ている。
マレラス氏は「AI時代には、従来型のシステム監視では不十分だ」と話す。技術リーダーやビジネスリーダーには、「何が起きているのか」を把握するだけでなく、「なぜ起きているのか」「次に何をすべきか」を理解するためのインテリジェントなオブザーバビリティが求められるという。
その実現に必要なのが、従来のように人手で管理してきた構成管理データベース(CMDB)からの脱却だ。代わりに、システムからリアルタイムで集まるデータ(テレメトリー)を基に、システム全体の状態や関係性を一目で把握できるオブザーバビリティシステムを活用する。「オブザーバビリティシステムは、現在のデータベースに代わる単一の信頼できる情報源となり、トラブルが起きた際も、リアルタイムデータから原因をすぐに追跡できるようになる。さらにAI技術同士が自律的に連携して動くような複雑なシステムでも、その挙動を確認し、分析できるようになる」とマレラス氏は語る。
テレメトリーデータとクラウドコストデータを組み合わせることで、オブザーバビリティシステムは非効率な部分を特定する。財務運用(FinOps)の自動化を通じて、コスト削減施策を安全に検証することも可能になるとマレラス氏は言う。「インテリジェント・オブザーバビリティは、システムのダウンタイムやクラウドサービスへの支出を削減し、企業の意思決定を進める。これにより、オブザーバビリティを測定可能なビジネスの成果へと転換する」(同氏)
5.仮想化の反乱
オールフラッシュストレージベンダーのPure Storageで日本およびAPACのバイスプレジデント兼最高技術責任者(CTO)を務めるマシュー・オーストフェーン氏によると、プロプライエタリ(独自)のハイパーバイザーが約10年にわたって支配してきた状況は、ついに崩れ始めるという。BroadcomによるVMwareといった近年の市場の再編が引き金となった一方で、ユーザー企業が仮想化製品に抱えていた根本的な課題である「コスト」や「複雑さ」「より大きなコントロールを求める欲求」が限界点に達したと同氏は指摘する。
「ライセンス料金の上昇と製品ラインアップの変化に疲弊した東アジアおよび東南アジアの企業は、インフラ運用の前提を変え始めるだろう」とオーストフェーン氏は述べる。「仮想化はもはや“製品”ではなく、“機能”になる。クラウドやコンテナ、エッジの各インフラに組み込まれた、軽量のハイパーバイザーやオープンソース技術、クラウドネイティブなオーケストレーションが、重厚長大な仮想マシン(VM)の乱立に取って代わる」
勝者となるのは、これを“離脱”ではなく“進化”と捉えるユーザー企業だという。単にVMを管理している状態から、コンピュートやストレージ、ネットワーク、AIアプリケーションまで含めたシステムの構成要素全体の仮想化へと移行することが重要だとオーストフェーン氏は言う。「インフラの構成要素はモジュール化され、プログラミング可能な、オープンな技術になる。ベンダーロックインは、コードを使ってインフラの構成管理を自動化するIaC(Infrastructure as Code)へと置き換えることで解消され、ハイパーバイザーは徐々に裏方になっていくだろう」(同氏)
6.オープンソース技術がエンタープライズAIを推進
ソフトウェアベンダーのRed Hatでシンガポールのゼネラルマネジャーを務めるグナ・チェラッパン氏によると、APAC全域でクラウドネイティブやAI技術、サイバーセキュリティ分野の人材需要は供給を上回り続けているという。現代的なシステムの構築や運用、改善のためのITスキルに投資しない限り、2026年には需要と供給のギャップはさらに拡大すると同氏は予測する。
その際に、オープンソース技術が重要な役割を果たすとチェラッパン氏は指摘する。オープンソースは、知識の共有や透明性、そして協調に根差したエコシステムを提供するためだ。「オープンソースソフトウェア(OSS)やオープンソースのフレームワークは、一部の企業だけでなく、誰もが利用できる形で提供される。より多くの企業が、迅速かつ責任ある形でアイデアを発展させ、コミュニティーへ還元するようになれば、アジアの各企業は単なる消費者としてではなく、創造者としての立場を強めることになるだろう」と同氏は言う。
「全ての企業に適した単一の技術やシステムは存在しない。オープンソース技術は、次に来るものを構築するために必要な自由とイノベーションを、今後も支え続ける」(チェラッパン氏)
後編は、セキュリティ分野のITトレンドを中心に紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.