「Qualcommの進撃」が告げたPC市場“新時代”の幕開け:Snapdragonが体現するAI革命【前編】
半導体ベンダーのQualcomm Technologiesは、AI技術によってコンピューティング分野が大きく変わりつつあることを体現する存在だと言える。その同社が見据えるAI技術とコンピューティングの未来とは。
半導体ベンダーのQualcomm Technologies(以下、Qualcomm)は、AI(人工知能)技術が台頭するのと同時にコンピューティングの技術が大きく変わってきたことを体現する企業の一社だと言える。MicrosoftのPC新ブランド「Copilot+ PC」の初期のラインアップにQualcommのプロセッサが採用されたことも、象徴的な変化だった。同社は2024年に主催したカンファレンスで、AI技術がもたらしたPCとコンピューティングの変化について語った。
PC市場に訪れた新時代の展望
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プロセッサ市場の勢力図が変わる?
Qualcommは2024年10月に開催した年次カンファレンス「Snapdragon Summit 2024」において、PC、モバイルデバイス、XR(Extended Reality、クロスリアリティとも)デバイスなど、さまざまなデバイスにおいてAI技術に基づく“新世代の体験”を提供することを強調した。
カンファレンスで登壇したQualcommのCEO、クリスティアーノ・アモンは次のように説明した。「新しい技術の恩恵を受けるためにエンドユーザーが努力して使うのではなく、技術がエンドユーザーとデバイスに適応するようになる。つまりエンドユーザーが使うデバイスでAI技術が実行されるようになる」
過去1年間の同社の開発スピードの速さについてもアモン氏は強調した。特に、Qualcommが買収したNuviaの技術をベースにした独自設計のCPU「Qualcomm Oryon」の第2世代では、処理能力と電力効率が向上したことに言及。Armアーキテクチャ(Armの設計)のプロセッサシリーズ「Snapdragon」の採用が進んでいることにも触れた。
Qualcommはモバイルデバイスの進化にプロセッサの面から貢献してきたベンダーだが、モバイルデバイス以外の分野でもイノベーション(技術革新)を加速させているとアモン氏は語る。その一つに、自動車分野がある。具体的な取り組みとしては、例えばコネクテッドカー(自動車のネットワーク接続)用機能群「Snapdragon Digital Chassis」を開発した。
PC分野への進出も新たな挑戦の一つだ。同社のSoC(System on a chip)「Snapdragon X Elite」は、Copilot+ PCのPCに搭載された。Copilot+ PCとはMicrosoftが新たに打ち出したPCブランドであり、搭載するAI用プロセッサNPU(Neural Processing Unit)については一定以上の高い性能(40TOPS<1秒当たり40兆回の演算>)を備えていることが条件になる。「Copilot+ PCではどういう結果になったかを思い出してほしい。ほとんどのPCベンダーがSnapdragonを採用したモデルを提供している」(アモン氏)
AI技術によるイノベーション
AI技術の進化が今日のコンピューティングに変革をもたらしているのは疑いようのない事実だ。そうした中でアモン氏は、これからは“AIファースト”の新しい体験が次の大きな変化をもたらすことになると展望する。
生成AIを使えるようになったことが既に驚異的な出来事だと言えるが、アモン氏は「重要なのは機械が人間の言葉を理解できるという事実だ」と語る。人間に対するのと同じようにして人間がAIモデルとコミュニケーションを取ることが可能になったのであり、これはアプリケーションの利用体験を根本的に変えるものなのだと同氏は強調する。その点こそがSnapdragonの注力分野になるという。
モバイル部門のグループゼネラルマネジャーであるアレックス・カトウジアン氏は、AI技術によってデバイスにはより高いレベルの理解力が備わっていくことは間違いないと展望する。モバイルデバイスもPCも技術的な転換点に差し掛かっている。「人間と機械のやりとりが、より直感的で双方向的になる」(カトウジアン氏)
OpenAIのアルトマンCEO
カンファレンスにビデオメッセージを寄せたOpenAIのCEO、サム・アルトマン氏も、AI技術が世界に驚くべき変化をもたらした点に言及。同社はAIモデルの改良を続けており、「さまざまな言語、テキストや音声、画像といったさまざまな形式のデータを同時にリアルタイムで理解できるAIモデルが利用できるようになる」と語った。
2024年9月にOpenAIが発表した「OpenAI o1」についてアルトマン氏は、複雑な推論を実行し、非常に難しい問題にも回答できる新たなAIモデルだと説明。「人間をさまざまな分野でナビゲートし、助けることができるAIモデルであり、人間のような“真に知的なアシスタント”を実現するための第一歩だ」と述べた。
こうしたAIモデルの進歩を踏まえても、デバイスでAIワークロード(AI関連のアプリケーションやそのデータ処理)を実行できることは重要だ。「デバイスでAIワークロードを実行できれば、AIモデルの応答をより高速にできるし、プライバシーを確保し、信頼を向上させることもできる」(アルトマン氏)。AI技術によってこれまでに実現したことは「まだ始まりに過ぎない」とした上で、「ビジネスの生産性が向上し、問題がより速く解決するようになり、人間の創造性を生かす新しい方法が見つかるだろう」と同氏は語った。
後編は、Qualcommがモバイルデバイス向けに提供するプロセッサの進化を深堀りする。
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