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「AIツールを活用中」の工学系エンジニアは4割超え その実態は?エンジニアリング分野におけるAI活用【前編】

機械工学や航空宇宙工学といったエンジニアリング分野におけるAI導入はどこまで進んでいるのか。機械技術者協会(IMechE)の調査を基に、AI活用の現状を解説する。

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 2022年にAI(人工知能)ベンダーOpenAIがチャットbot「ChatGPT」を発表して以来、多種多様なAI関連サービスが登場し、さまざまな産業で生成AIの導入が進んでいる。機械工学、電気工学、航空宇宙工学、土木工学などを含むエンジニアリング分野もその例外ではない。本連載は、機械技術者協会(IMechE)の調査を基に、エンジニアリング分野におけるAI活用の現状と課題を解説する。

工学系エンジニアのAI活用は4割超え その実態は?

 エンジニアリング分野は、英国における労働力の約5分1を占めており、2022年には同国経済に6460億ポンドの貢献を果たしている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック禍では景気低迷の影響を受けたものの、近年は回復の勢いを見せている。

 一方、エンジニアリング分野では、熟練エンジニアの早期退職に伴うスキル不足が深刻な課題となっている。航空宇宙系企業のRolls-RoyceやBAE Systemsは、スキルアカデミー(技術者育成機関)を活用して新人育成を強化している。政府も見習い制度(アプレンティスシップ)の推進を通じて、次世代の技術者育成に取り組んでいる。

 一部の企業は、スキル不足解消の一環としてAI技術の活用に注力している。AI導入で業務効率化を実現し、熟練エンジニアがより価値の高い業務に専念できる環境を整備することが目的だ。

 それでは実際、エンジニアリング分野ではどの程度AI導入が進んでいるのか。IMechEは2024年11月、エンジニアリング分野におけるAI技術の利用状況と課題を調査した報告書「The Promise and Peril of AI」を発表した。調査はIMechEの会員である125人のエンジニアを対象に実施した。

エンジニアリング分野におけるAI活用の現状

 調査では、回答者の41.9%が勤務先でAIツールを使用しており、21%が今後の導入を検討していると答えた。このように生成AIの採用が広がる理由の一つは、比較的アクセスしやすく、専門的なハードウェアを必要としない点にある。例えば、ChatGPTのようなツールはWebブラウザさえあれば利用可能だ。

 企業で最も一般的に利用されているAI技術は大規模言語モデル(LLM)で、回答企業の58.4%が活用していた。次いで利用されているのは、機械学習ツールや、Microsoftの「Microsoft 365 Copilot」などの生産性向上ツールで、それぞれ32.5%の企業が採用していた。

 メールや提案書などの文書作成にAIツールを活用している企業は32.4%だった。データ分析にAIツールを活用する回答者は全体の27.6%だったが、この分野での利用は今後拡大すると見込まれている。実際に、57.1%の回答者がデータ分析業務へのAI導入に積極的な意向を示していた。

 過半数の回答者が「単調で繰り返しの多い作業をAIツールで自動化することで、生産性が向上し、エンジニアはより複雑で創造的な業務に集中できる」と考えていることが明らかになった。エンジニアが最も関心を寄せているのは、シミュレーションツールや生産性向上ツールだった。これに次いで、設計最適化、予知保全、研究といった分野でのAI活用に対する期待が高かった。

 一方で、シミュレーションを用いて最適な設計案を提案したり、潜在的な欠陥を特定したりするための「デザイン生成ツール」はまだ広く普及しておらず、導入している企業は19.5%にとどまった。コンピュータビジョン(画像処理を通じて対象を認識・理解するAI技術)やニューラルネットワーク(人間の脳神経回路を模倣した機械学習手法)を使用している企業はさらに少なく、その割合はそれぞれ15.6%と11.7%に過ぎなかった。


 後編は、エンジニアリング分野におけるAI活用時の懸念について紹介する。

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