開発者の“手作業地獄”からの脱却 ITSM×IDPでサービス運用はどう進化する?:属人化するインシデント対処
サービス複雑化に伴って、開発者は手作業での情報更新や依存関係の調査といった作業に追われている。この課題を解消し得る、ITSMツールとオブザーバビリティを結び付ける新しい潮流とは。
ITサービス管理(ITSM)ツールの市場で、新たな潮流が生まれている。システムの稼働状況を把握するオブザーバビリティ(可観測性)とITSMを直接結び付けようという動きだ。この背景には、サービスを提供する企業の切実な課題がある。どのような問題に対して、ベンダーはどう働き掛けているのか。
ITSM×オブザーバビリティが解決する“切実な悩み”
背景にあるのは、開発者が手掛けるサービスがマイクロサービス(機能ごとに分割した小規模サービス)アーキテクチャの普及によって複雑化していることと、それに伴うインシデント対処の遅れだ。
こうした課題に対して、オブザーバビリティツールベンダーが、ITSMツール群に開発者用ポータルサイト(IDP:Internal Developer Portal)を追加する動きを見せている。IDPは、開発者向けサービスの情報を集約し、開発者が発見しやすくするためのポータルサイトとして機能する。
オブザーバビリティツールベンダーのDatadog社は、同社のITSM製品群にIDPを追加した。主な機能としては、管理対象のITインフラやサービスを一覧で確認できる「ソフトウェアカタログ」や、定型業務を自動実行する「セルフサービスアクション」、サービスが社内ポリシーに準拠しているかどうかを評価する「スコアカード」などがある。これによって、開発者が自身でシステムのトラブルシューティングや更新、作成を実行できる体制を支援する。
デジタル従業員エクスペリエンス(DEX)ベンダーのNexthinkは、オブザーバビリティ強化に取り組む一社だ。同社は社内で運用するマイクロサービスの数が増えるにつれて、開発したサービスのメトリクス(指標)などのデータ管理の複雑化に悩まされるようになった。特にインシデント発生時には、サービス間の依存関係や担当者の特定を手作業で実施する必要があり、対処の遅れという致命的な問題を招いていた。
こうした背景から、Nexthinkはサービスの担当者、依存関係、健全性といった情報を、リアルタイムの観測データと結び付け、一元的に表示するインタフェースを求めていた。そこで、それまで試験的に導入していたIDPツール「Backstage」から、DatadogのIDPに移行する方針転換を決めた。同社でオブザーバビリティ部門を率いるパスカル・ガンディルホン氏によると、DatadogのIDPは以前利用していた製品よりもデータの転送や処理にかかる利用料金を抑えられたことと、社内開発者にDatadogの利用経験があったことが主な理由だ。
「既存の構成ファイルを変更せずに移行できる点が決め手だった。ツールが乱立しがちなDevOpsの世界で、全ての情報を1つの場所に集約できることの価値は大きい」とガンディルホン氏は語る。次の課題としてNexthinkが目を向けているのは、マイクロサービスにおける継続的デリバリーの改善だ。
既存ツールとの使い分けを模索する企業
NexthinkによるDatadogのIDP導入事例は、手動でのインシデント対処からの脱却であり、既存ITSMツールの置き換えではない。「Jira Service Management」などのITSMツールを導入済みの企業は、それらの代わりにIDPを採用するのではなく、ITSMツールをオブザーバビリティデータと結び付けるというアプローチに目を向け始めている。
データ管理ベンダーdbt Labsのサイト信頼性エンジニア、エリック・スワンソン氏は、既存ツールとの橋渡しは必要になることに同意しつつ、「Jira Service Managementのメタデータを整備するだけでも、オブザーバビリティツールとの連携が深まり、データからさらなる価値を引き出せるはずだ」と期待を寄せる。
イベント運営支援サービスを手掛けるCventは、自社インフラでBackstageを稼働させている。同社のソフトウェアエンジニアであるマーク・エイブリー氏は、「作り込まれた自社システムを置き換えることはない」と述べる傍ら、小規模な企業にとってSaaS(Software as a Service)型IDPは有効だと指摘する。開発チームが数チームしかなく、管理するサービス数も多くない場合、全てのシステムを自前で構築、運用するのは現実的ではない。「開発者が手入力するデータではなく、オブザーバビリティツールが自動収集した、信頼できるデータを得られるようになるのはメリットだ」とエイブリー氏は語る。
決め手は企業規模より「技術的成熟度」
企業がどのツールを主軸に据えるのかは、企業規模よりも、技術への注力度とインシデントへの即応性をどれだけ重視するかにかかっているとアナリストは分析する。
調査会社Forrester Researchのアナリストであるカルロス・カサノバ氏は、エンジニアリングに特化した企業と、システムの運用状況や障害をビジネスの観点から管理したい企業では視点が異なると話す。前者はオブザーバビリティツールを、後者は「ServiceNow」などの従来型のITSMツールを主軸に考えるとカサノバ氏は主張する。
大局的なアプローチに偏れば緊急時の対処が遅れ、リアルタイムのアラートを重視すればささいな問題に過剰反応することになりかねない。カサノバ氏は、このトレードオフを乗り越える鍵は「企業の技術的な成熟度」にあると指摘する。
カサノバ氏は、市場競争の激化を予測する。「ITSMツールやオブザーバビリティツールを提供するベンダー各社の得意分野は重なり合っており、今は共存しているように見えるが、いずれ市場の力学が働き、他社を圧倒するベンダーが現れるだろう」
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