xAI「Grok 3」を採用するOracle 後発クラウドが仕掛ける“AI戦略の勝算”:顧客志向がOracle Cloudの本質?
Oracleは実業家イーロン・マスク氏率いるxAIのAIモデルが利用可能になると発表した。クラウドサービスへの導入で、顧客ニーズに応えるための一手だという。同社の戦略の狙いや背景を解説する。
近年、存在感を増すOracleのクラウドサービス群「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)。Oracleは2025年6月17日(現地時間)、生成AI(AI:人工知能)を利用できるOCIのサービス「OCI Generative AI」において、AIベンダーxAIの「Grok 3」が利用可能になると発表した。コンテンツ生成、調査、業務プロセスの自動化など、さまざまな用途にGrok 3を活用できるようになるという。
AIモデルの多様化が進むOCI Grok追加の狙いは?
これまでも、OCI Generative AIでは、Cohereの「Cohere Command R」「Cohere Command R+」や、Meta Platformsの「Llama 4」といったAIモデルが選択できた。オープンソースの機械学習ライブラリを活用してLLM(大規模言語モデル)を構築、トレーニングできる統合環境「OCI Data Science」では、Mistral AIの「Mistral」なども利用できる。今回のGrok 3の追加は、主要クラウドベンダーが有力なAIモデルを取り込もうとする動きにOracleが追従した形だ。xAIにとっても、OCIを利用して、Grokの次世代モデルのトレーニングを行い、推論能力の向上を図れるというメリットがある。
Oracleのシニアディレクターを務めるフェデリコ・トレッティ氏は、OCIにはイノベーティブ(革新的)なAIモデルが集まりつつあると胸を張る。「顧客企業ごとに最適なソリューションを提供するため、Oracleは主要なAIベンダーとの提携を進めている」と語る。
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OracleとOCIの強み
調査会社Moor Insights & Strategyのアナリスト、マット・キンボール氏は、顧客企業のニーズに応えようとしているとOracleの姿勢を評価する。「Oracleの経営陣と会話する機会があるが、競合するクラウドベンダーよりも顧客企業を重視しているように感じる」と語る。
キンボール氏は、顧客重視の姿勢が表れているポイントとして、Oracleの提供するAIサービスのバランスの良さを挙げる。「選択肢が少な過ぎれば顧客のニーズには応えられない。かといって選択肢が多過ぎると、顧客は何を選べばいいのか混乱する可能性がある。OCIはこの微妙なバランスをうまく取っているように見える」
さらに同氏は、Grokが強みを発揮するとされる、ヘルスケア、金融、法律、研究などの専門分野はOracleにとっても得意な領域であり、今回の連携は理にかなっていると指摘する。
キンボール氏は、「Grokの追加により、 OCIとクラウドサービス群『Microsoft Azure』の連携が進むかもしれない」と期待を寄せる。2025年5月19日(現地時間)、Oracleの発表に先駆けてMicrosoftは、AIアプリケーションやAIエージェントの設計、カスタマイズ、管理機能を備えたAIサービス群「Azure AI Foundry」でGrok 3および「Grok 3 mini」が利用可能になると発表していた。Grokを介して両者の連携がさらに進む可能性がある。
OCIの設計がAIに向いているとの評価もある。もともとはデータベースのワークロード(処理やタスク)用に開発されたOCIだが、調査会社Constellation Researchのアナリスト、ホルガー・ミュラー氏は、「超低遅延なネットワークを使用してCPUにアクセスできるというOCIの特長は、GPU(グラフィックス処理装置)を多用するAIワークロードにも有利に働くということが明らかになった」と語る。
キンボール氏は、OCIに蓄積された大量のデータがAIと組み合わさるメリットについても語る。「Oracleが保有する膨大な量のデータにGrokを導入することで、顧客にとって真に価値あるインテリジェンスがもたらされる。OCIユーザーをGrokに引き込むことにもつながるだろう」と語る。
Oracleは本当に競争力を得られるのか
懐疑的な意見も存在する。調査会社The Futurum Groupのアナリスト、デビッド・ニコルソン氏は、Oracleのクラウドサービスは後発で、競合する大手クラウドサービスに遅れを取っていると指摘する。「Grokの追加は“良い宣伝”にはなるだろうが、見込み通りの成果につながるかは不透明だ。実際の価値を引き出すためには、バックエンドで多くの作業が求められる」と語る。
同氏は、多くのクラウドサービスがさまざまなAIモデルとの連携を図るのは、顧客企業の実際のニーズというより、市場からの過剰なプレッシャーにさらされていることが背景にあると分析する。
実際、ライバルの動きも活発だ。Googleは、2025年6月17日(現地時間)にLLM「Gemini 2.5」ファミリーのアップデートを発表した。「Gemini 2.5 Pro」と「Gemini 2.5 Flash」の一般提供開始と、「Gemini 2.5 Flash-Lite」のプレビュー版の公開だ。Gemini 2.5 Flash-Liteは、「Gemini 1.5」および「Gemini 2.0 Flash」をアップグレードしたもので、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)のパラメーターを使用して、推論時に割り当てる計算リソースをユーザーが制御する“思考予算”という新しいコンセプトを採用している。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)
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