「オンプレミス回帰」「脱クラウド」を招いた“米国離れ”の衝撃:オンプレミス回帰に新たな潮流【第1回】
かつてはクラウドが企業ITの未来を変えると信じられる傾向もあったが、その潮目が変わりつつある。米国クラウドへの依存を減らし、オンプレミスや自社運用への回帰を検討する動きが広がっている。
Amazon Web Servicesが2006年にクラウドサービス群の提供を開始し、その後Microsoftの「Microsoft Azure」や、Googleの「Google Cloud」といったクラウドサービス群も登場した。扱いにくいレガシーITシステムに代わり、アジリティー(俊敏性)とコスト効率に優れた“理想郷”が誕生したと、IT業界関係者やユーザー企業の多くが期待した。
しかし今、潮目が変わりつつある。クラウドサービスからオンプレミスへの回帰(脱クラウド)、特に米国クラウドサービスからの脱却の動きが各地で起きている。背景に何があるのか。
オンプレミス回帰を加速させた“米国クラウド依存”の問題
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「オンプレミス回帰」の真相
現在、デジタルテクノロジーやデータについての支配権や所有権の在り方を示す「デジタル主権」という概念が、各国企業の経営陣と調達チームの間で話題になっている。これは、単にデータの所在地の問題ではない。誰がデータをコントロールするのか、誰がデータから利益を得るのか、問題が起きた時には誰が責任を担うのかといった“権利”が関係している。デジタルテクノロジーがその国の安全保障や経済にまつわる国際競争力を左右する今日、デジタル主権はより喫緊の課題となりつつある。
英国のクラウドベンダーCivoが英国のIT意思決定者1000人以上を対象に実施した最新の調査では以下の結果となり、この問題に対する関心の高まりが明らかになった。
- 84%が「地政学的な問題がデータアクセスや管理を脅かす可能性」に懸念
- 60%以上が「米国の関税政策への対抗として、英国政府は米国クラウドサービスの利用を停止すべき」と回答
- 45%が「米国クラウドサービスからの離脱を前向きに検討」と回答
企業戦略の変化も浮き彫りになっている。78%が技術ベンダーを選択する際にデジタル主権を考慮すると回答し、68%がデータの所有権が明確な場合にのみAIサービスを利用すると答えたのだ。これらの結果から、デジタル主権を重視する企業が増えていることが分かる。まだ米国のハイパースケーラー(大規模データセンターを運営する事業者)からの大量離脱は起きていないが、英国企業が“脱米国産クラウドサービス”を検討しつつあることは明らかだ。
これは英国だけの現象ではない。欧州では、経済学者フランチェスカ・ブリア氏が主導したレポート「EuroStack」が大きな反響を呼び、欧州が主権を持つ、国際競争力のあるクラウドインフラ開発に向けた政府機関への働き掛けが始まっている。最終的には各国政府がこうした動きを主導していくだろうが、企業も無関係なわけではない。従来のようにクラウドサービスの性能やコストだけではなく、自国の政府による規制のリスクにも今後は気を配る必要がある。
この動きは最近、米国大統領ドナルド・トランプ氏が主導する関税政策により明確になった。CivoのCEOであるマーク・ブースト氏によると、“一夜にして風向きが変わった”という。「米国のクラウドサービスに依存する危険性が明らかになり、企業はリスク軽減について検討し始めた」と同氏は語る。
欧州向けのクラウドサービス「Dynamo Cloud」を運営するDynamo S.p.A.のCEO、フランチェスコ・ボンフィーリオ氏もこれに同意する。同氏は欧州向けのデータインフラの整備を目指すイニシアチブ「Gaia-X」のCEOを務めた経歴を持つ。
「企業が大手クラウドベンダーから主導権を取り戻そうとする動きが見られる。欧州の大企業の20〜30%がすでにワークロードをクラウドサービスから、オンプレミスインフラや自社で運用管理するセルフマネージドサービスに移行中だ。他にも独自のデータセンターを構築したり、データセンターのスペースを借りるコロケーションを利用したりする動きもある。もっとも、望んでそうしているわけではなく、データを完全にコントロールできる他の選択肢がないのが理由だ」(ボンフィーリオ氏)
次回は実際にオンプレミス回帰を実行した企業の例を紹介する。
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