「HDD終焉説」に現実味 600TBが見えたPure Storageの“次世代ストレージ”構想:フラッシュストレージの新たな方向性【前編】
生成AIの活用が広がり、企業が保有するデータの重要性が増す中、Pure Storageは新構想「Enterprise Data Cloud」(EDC)を発表。ストレージを「クラウドライク」に変えるその狙いとは。
オールフラッシュストレージベンダーのPure Storageは2025年6月17〜19日(現地時間)の3日間、年次イベント「Pure//Accelerate 2025」を開催した。同イベントは毎年、新製品や新たな戦略が打ち出される場となっているが、今年は新たな取り組みとして「Enterprise Data Cloud」(EDC)が発表された。ただし、現時点ではEDCは具体的な製品ではなく、中長期的なビジョンとして位置付けられている。AI時代を迎え、これまで以上にデータの重要性が高まっている中で今後のストレージはどのように変化していくのか。今後のインフラ整備やシステム更新の際の参考になるのではないだろうか。
300TBも公開、独自フラッシュモジュールで実現する次世代ストレージ
生成AIの大ブームを経て、現在多くの企業ではAIエージェント/エージェンティックAIに対する取り組みを強化している段階だ。一般常識的な情報を集めるならクラウドサービスとして公開されている各種LLM(大規模言語モデル)を活用すればよく、それだけでも大幅な効率改善が果たせる作業も多数あるわけだが、一方で企業内の独自の規定やプロセス、業務知識などを必要とする作業をAIに実行させようとすれば、あらかじめ高品質なデータを学習させておく必要がある。十分な学習ができなければAIの精度は期待ほどには高まらず、実用レベルに達しないということが分かってきたこともあり、企業内に大量に蓄積されたデータをどのように整理し、学習データとしてAIに供給していくかが新たな課題として浮上してきた。
Pure//Accelerate 2025の基調講演に登壇したチャールズ・ジャンカルロ氏(CEO)は、競合他社との差別化ポイントとして同社の研究開発投資が売上の20%以上を占めていることを紹介し、「われわれはデータストレージをコモディティー製品ではなく先端技術だと考えている。それこそが、われわれが“ストレージ分野のイノベーター”であり続けている理由だ」としている。
同社のストレージ製品では、HDD互換のSSDではなく、独自開発のNVMe接続のフラッシュモジュール「DirectFlash Module」(DFM)が使用可能となっている(図)。半導体メーカーからフラッシュチップを直接購入し、自社でモジュールに組み上げるというやり方で実現しており、このところ毎年2倍のペースで容量拡大を続けている。現在は150TBモジュールが入手可能となっているが、今回は次世代の300TBモジュールが公開され、順調に開発が進んでいることが示された。
図 次世代の300TB DFM。現状はまだ「ラボレベル」ということだが、既に稼働可能な実物が出来上がっている段階。順調に進めば2026年には600TB、2027年にはPB級のモジュールが登場する可能性もある。《クリックで拡大》
こうした強固なハードウェアの基盤にストレージOSなどの同社の独自のソフトウェアを組み合わせることで、現在の企業ユーザーが必要とする先進的なデータ基盤を実現する、というのが同社の基本的なアプローチとなる。ジャンカルロ氏は「HDDの代替品として扱われるSSDとは異なり、DFMはわれわれのソフトウェアで直接管理される。これが、われわれの製品が競合の5倍の性能を達成できている理由だ」と語り、同社の協業優位性は優れたハードウェアとソフトウェアの組み合わせにあることを強調している。
今回新たに発表されたEDCは、そのソフトウェア面での新たなアプローチだと位置付けることができるだろう。ジャンカルロ氏は「従来のストレージ管理では、アレイ間で空き容量のやりとりはできず、人手に頼った管理手法がまだまだ数多く使われている」と、従来のストレージ管理の考え方を革新する必要があると指摘。例えばスナップショットやバックアップのポリシー、セキュリティやデータレジリエンスなど、多くの運用管理がアレイ単位で実施されていることが課題となっているとし、「こうした課題はストレージ視点で見ているせいだが、これからはデータ視点で考えていくべきだ」と語った。
「データは本来アプリケーションと関連付けられており、ストレージと結び付いているわけではないため、本来データをコピーして移動させることは可能なはずだが、データがいつどこにコピーされ、どこに移動したのかを記録して追跡するような仕組みは現在のストレージには備わっていない。こうした操作は手動で実行され、管理されており、一貫性を欠いている」。ジャンカルロ氏はそう指摘し、EDCをこうした課題に対する解決策と位置付けた。
“クラウド型ストレージ”への移行が不可欠に
EDCが目指す姿をジャンカルロ氏はクラウドに例えている。クラウドでは物理的なデバイスの詳細を気にすることなく、論理的な操作だけで一貫した体験が得られるようになっている。同氏は従来のエンタープライズストレージを「垂直的、手動操作、サイロ化傾向」とし、一方クラウドストレージを「水平的、自動化、ストレージプール化」と表現した上で、今後はエンタープライズストレージに関しても物理的な実体を伴うシステムでありつつも、クラウド型のアーキテクチャに移行していく必要があるとした。これこそが、EDCの目指すものということになる。
EDCのコンセプトを実現していく上では、同社の中核ソフトウェアである「Purity」の機能強化が不可欠だ。Purityでは新たに「Pure Fusion」の機能が組み込まれ、複数のストレージアレイを仮想的に統合して集中管理できるようになっている。EDCはPure Fusionを前提として実現される形になるが、前述の様に現時点では製品としては位置付けられていないため、具体的にどのような形で実現されるかは明確になっていない。
この他、Purityの機能拡張として新たにオブジェクトストレージのサポートも追加された。ブロックストレージ、ファイルストレージの機能に加えてオブジェクトストレージも追加されたことで、ユーザー企業が必要とするストレージ機能を網羅的にカバーすることができるようになった。従来のPure Storage製品の位置付けでは高性能/高信頼のプライマリーストレージとしての利用が中心だったため、オブジェクトストレージ機能のニーズは高くはなかったと思われるが、2025年初頭に公表されたMeta Platformsによる「Design win」を考えると、今後同社のストレージがオブジェクトストレージとして活用されることになっていくことを想定した動きだとみられる。Design winとは、端的に言えばMetaのクラウドプラットフォームでPure Storage製品の採用が決まったという意味だと考えてよい。
Metaも採用、HDDの終焉(しゅうえん)に現実味
性能や消費電力量、運用管理負荷などではフラッシュストレージが優位にあることは周知の事実となっているものの、バイト単価ではまだHDDが有利とされており、特に大容量を安価で提供したいクラウド事業者などではニアラインストレージなどの形で大量のHDDが運用されてきた。だがDFMによってバイト単価も下がってきていることもあり、ついにハイパースケーラーの一角がHDDからPure Storage製品に切り替える決断を下した形だ。ジャンカルロ氏は2023年のPure//Accelerate 2023の基調講演において「2028年までにHDDの新規販売はなくなる」(By 2028, No New HDDs sold)と語ったが、この「予言」がいよいよ現実のものとなりそうな状況になってきているようだ。
Pure//Accelerate 2025で発表された新機能群については、次回の後編で具体的に解説する。
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