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「コードを書く時代は終わった」 “バイブコーディング”で変わる開発作法AIで変わりゆく開発者の仕事【第2回】

生成AIの進化が、ソフトウェア開発の在り方を根本から変えつつある。自らはコードを書かず、AIに任せる「バイブコーディング」が、スタートアップを中心に広がり始めているという。その実態とは。

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 生成AIの進化がさまざまな業種に影響を与えている。中でも大きな影響を受けつつある職種の一つが、ソフトウェア開発だ。第1回「コードはもう書かない――急速に浸透する『バイブコーディング』の現実」でも触れた通り、“雰囲気”(Vibe)に身を委ね、自らがコードを書くことはしない「バイブコーディング」という手法が登場している。

 バイブコーディングは実際にどの程度、ソフトウェア開発の仕事を変えつつあるのか。その影響は、特にスタートアップで顕著だ。2025年3月、スタートアップを支援するY Combinatorの経営陣によるビデオパネルディスカッションが開催された。マネージングパートナーのジャレッド・フリードマン氏は、同社が実施した調査において、回答者の4分の1が「コードベースの95%以上がAIによって生成されたものだ」と回答したことを明らかにした。

スタートアップで広がる「バイブコーディング」の実態

 Y Combinatorのプレジデント兼CEOのギャリー・タン氏は、同パネルディスカッションで次のように述べた。「これは流行ではないのでなくなることはない。コーディング手法の主流なのだ。実践していない人は、置いていかれているだけだ」

 同じ発想を受け入れている幹部は、他のスタートアップにもいる。サンフランシスコを拠点とするパスワードレス認証スタートアップ企業ObligeAIで最高技術責任者(CTO)を務めるケン・シルマッハー氏は20205年4月、米Informa TechTargetのインタビューで次のように語った。「目の前にコンピュータの画面が8面あり、実際にそのうち5面でバイブコーディングが進行中だ。この会話の間にも、私はコードを書いている」

 「かつては大人数のチームで、膨大な時間をかけなければ作れなかったものが、今では年単位ではなく、数週間、数カ月の単位で作れる」とシルマッハー氏は述べる。「開発者が1人で3万〜4万行のコードを延々と書く時代は終わった。もうゼロからの状態から始めることはない」(同氏)

 バイブコーディングの普及に合わせて、“人間の開発者”という職業の将来は暗いものになった。AIベンダーAnthropicの共同創業者でCEOのダリオ・アモデイ氏は2025年3月のインタビューで、「3〜6カ月以内にコードの90%をAIが書くようになり、1年以内に基本的に全てのコードがAIで生成されるようになる」と語った。

 アモデイ氏は、「いずれ人間ができることは全てAIができるようになり、それが全ての産業で起きるだろう」と指摘した。この予測はすぐに現実味を帯びた。2025年4月にはShopifyやFiverrといったWeb企業が、AIよりも人間を採用する方が価値あると証明することが必要になると、従業員に伝え始めた。

 シルマッハー氏は議論をさらに一歩進めている。AIによって、ソフトウェア開発が開発者を減らしながらスピードアップするとしたら、数千人規模の開発者を抱える大手テクノロジー企業の側も、これから10年のうちに持続不可能になると同氏は予測した。「ある国が、山全体が金(ゴールド)でいっぱいだったとの調査結果を発表したと想像してほしい。当然、金の価格は暴落する」。同氏はそう述べ、それと同じことがソフトウェア開発の世界で起きたとする。「今の価格でプロダクトを販売して、それが10年後も通用するとは考えられない」(同氏)

ただしコーディングエージェントの課題も

 一方で「3〜6カ月以内にコードの大半がAIによって生成されたものになる」とのアモデイ氏の予測は、そう簡単には実現しない可能性もある。MicrosoftのCEO、サティア・ナデラ氏は2025年4月、「自社のコードの20〜30%がAIによって生成されるようになった」との見解を示した。これは、GoogleのCEO、スンダー・ピチャイ氏が2024年10月の決算説明会で示した数字に近いものだ。IBMのCEO、アルビンド・クリシュナ氏も2025年3月のインタビューで、「AIが生成するコードの割合はこの辺りにとどまる」との見方を示した。

 AIによるコーディングは、出力の偏りや不正確さ、ハルシネーションなどの問題によって停滞している。定評のある企業だと、実用最小限の製品、つまりMVP(Minimum Viable Product)を開発する手法としてはバイブコーディングが有効だが、AIが生成するものを本番環境に投入しようというところはほとんどないだろうと、調査会社Forrester Researchのアナリスト、ディエゴ・ロ・ジウディス氏は言う。同氏は「AIが企業のプロトタイピングやイノベーションを加速させるのは確実だが、それを実際にスケーラブルな製品に仕上げる仕事を、誰かがきちんとやる必要がある」として、「そこにもコード生成ツールを使えるが、バイブコーディングの使い手ではなく、本物の開発者の仕事になる」と述べる。


 次回は、バイブコーディングによって変わりつつある開発者の役割に焦点を当てる。

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