誰でも開発できる時代がやって来た?【後編】
非エンジニアでもプログラムを開発できる「夢のコーディング」の落とし穴
自然言語で「こうしたい」と伝えるだけで、AIがコードを書いてくれる「バイブコーディング」。そのまま使って本当に問題ないのかという懸念はあるが、筆者がその実力を実際に使って試してみた。
バイブコーディング(vibe coding)とは、AI(人工知能)技術を活用したプログラミング手法だ。ユーザーが自然言語で「こんな機能を実現したい」と伝えるだけで、大規模言語モデル(LLM)がソースコードを生成してくれるというものだ。
IT系の記者である筆者は、バイブコーディングを実践してプラグインを作成した。ナレッジ管理アプリケーション「Obsidian」に、情報整理ツール「Evernote」のような使い勝手をもたらすプラグインだ。本稿は、その過程で得た知見を基にバイブコーディングのリスクや課題について解説する。
誰でもプログラムが作れる「バイブコーディング」の落とし穴
併せて読みたいお薦め記事
連載:誰でも開発できる時代がやって来た?
編集部がAIを検証
作成したプラグインはシンプルなもので、ノート内の「やるべきこと」(アクションアイテム)を簡単にマークし、自動で一覧化する機能だ。筆者は普段、アクションアイテムを「//」という記号を用いてマークしているが、後からそれらを探し出すのが手間だった。そこで、「//」から始まる行を自動検出し、それらをページ冒頭の「Action Items」セクションリストアップしてくれる機能を実装したいと考えた。
AIチャットbot「Claude」と「ChatGPT」で生成したソースコードは、確かに目的通りに機能した。しかし、動作を確認するうちに、ソースコードに不自然なスロットリング(間引き)処理が入っていることに気付いた。その理由をAIモデルに尋ねたところ、次のような回答が返ってきた。「文書全体をスキャンして『//』が含まれている行を検出する必要があるため、CPU負荷を考慮して、150ミリ秒ごとに1回だけ処理を実行するようスロットリングしています」
この回答には驚かされた。単に行頭が「//」かどうかを判断するために、文書全体を150ミリ秒ごとにスキャンするのは、明らかに非効率的だ。仮に30分間の会議ノートを開いている場合、1万回以上も同じノートをスキャンする計算になる。
筆者が「行頭の2文字を確認し、空白は無視すれば済むのではないか」と指摘すると、AIはその提案を受け入れ、該当部分を修正。結果として、より軽量かつ効率的なプラグインが完成した。
ここで重要なのは、もし人間側がこの非効率な処理に気付かなければ、そのまま運用されていたという点だ。こうした無駄の積み重ねは、確実にシステムリソースの浪費につながる。筆者がこれまでAIコーディングツールを活用してきたのは、いずれも比較的小規模なプロジェクトばかりだが、非効率な処理は頻出していた。規模が大きくなるほど、その影響はさらに顕在化しやすい。
結論、AIコーディングツールはまだそのまま使える段階には達していない。スキルを備えた人間が適切に管理しないと、ソースコードの質の低下やリソースの無駄遣い、セキュリティリスクさえも引き起こしかねない。
バイブコーディングの気になる「安全性」
AIコーディングツールは、あくまで「ユーザーが求める機能を実現すること」を目的としたツールだ。セキュリティや性能面への配慮は、基本的に後回しにされる。
筆者はセキュリティ専門家ではないが、実際にAIモデルが生成したソースコードを確認すると、レースコンディション(同時処理の競合)への対処など、安全性に関わる部分の記載が甘いケースが見受けられた。多くの場合、根本的な設計改善ではなく、その場しのぎのパッチ(修正プログラム)だけで済ませているようだ。
この問題は、プロンプトの工夫や、セキュアコーディングに特化したドメイン固有言語(DSL)の導入で軽減できる可能性もある。しかし実際には、「GitHub Copilot」「Cursor」などのAIコーディングツールであっても、非効率かつ脆弱(ぜいじゃく)なソースコードが出力されるのが実情だ。
特に、異なるデータソース間で情報をやりとりするような場面では、その安全性をユーザー自身が見極められるかが問われる。
現時点では、AIコーディングツールの利用には「人間によるコードレビューと管理」が不可欠だ。単に動作を確認するだけでなく、安全性、効率性、実用性を総合的に判断することが求められる。
バイブコーディングは誰でもすぐに実践できるため、エンドユーザーによる活用がIT部門やセキュリティチームの想定を超えて広がる可能性がある。現時点ではまだ大規模に広がっているわけではないが、今後生成AIの導入が進む中で、状況は急速に変化し得る。
特に注意が必要なのは、これらの活動が「IT部門の監視の外」で起こる点だ。社内で承認されていないAIツールが業務で使用されているケースは少なくない。
仮にそれがセキュリティインシデントに直結しないとしても、インフラへの負荷増大といった形で問題が顕在化する可能性はある。筆者のObsidian向けプラグインのように、軽微な処理であっても非効率な設計のまま多数の環境に展開されれば、累積的にインフラ全体の処理能力に影響を及ぼすリスクがある。
AI活用が日常になりつつある今、バイブコーディングの普及を前提とするなら、IT担当者やセキュリティ担当者は次のような問いに真剣に向き合う必要がある。
- ユーザーによる生成AI活用をどうガイドし、支援するか
- リスクを最小化しつつ、イノベーションを促進するにはどうすべきか
- バイブコーディングで生成したソースコードをどう特定し、評価するか
- どのタイミングで介入すべきか、その判断基準は何か
TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス
米国Informa TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス
米国TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[フォーティネットジャパン合同会社] 複雑化しがちな「SASE運用」 IT・医療・金融などの事例に見る導入成功の秘訣 -
製品資料
[フォーティネットジャパン合同会社] 「SD-WAN」導入で失敗しないための5つの重要事項 -
技術文書・技術解説
[フォーティネットジャパン合同会社] VPNの代替候補「ZTNA」を理解できるようになる“3大要素”とは? -
事例
[フォーティネットジャパン合同会社] すぐ分かる「SD-WAN」選定のポイント 成功企業はどんな成果を出した? -
製品資料
[SCSK株式会社] 「Dropbox」管理・運用の困りごと解決ガイド
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft月例パッチ1400件超で過去最多 「限界点」を迎えたパッチ管理
-
2
「エージェントを作るな、スキルを作れ?」 Anthropicが提唱するAI運用の勘所
-
3
なぜ人はいるのにDXが進まない? ライオンも直面した“老害”レガシーシステム
-
4
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
5
被害額は過去最高額 それでも「サイバー犯罪者が捕まらない」3つの理由
-
6
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
7
みずほ証券が「液冷サーバ」を採用 1日3.6億件の計算を支えるための要件
-
8
Microsoft 365の「テナント統合・分離」問題 手戻りのない道を選ぶ秘訣とは?
-
9
「有線LAN環境」に関するアンケート
-
10
いまIBM iエンジニアが直面する「5つの技術的課題」とその解決策
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
7
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
-
10
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー