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「オフィスに戻れ」の大号令、テレワーカーは“出社回帰”で岐路に立つオフィス回帰で働き方は新局面に【前編】(1/2 ページ)

出社義務化の動きが加速している。AmazonやGoogle、AT&Tが新たな方針を打ち出す中、従業員の反発も根強い。オフィス回帰の実態と、そのリスクや成功要因を整理する。

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人事 | 在宅勤務


 従業員に出社を義務付ける「オフィス回帰」(RTO:Return To Office)の動きが大きくなっている。2025年1月1日以降、Amazon.comやAT&T、Googleなどが、新たな出社義務化の方針を打ち出した。これは、既に同様の動きを見せていたJP Morgan、Citigroup、Dell Technologies、Appleなどに続くものだ。

 ただし、こうした働き方の方針転換に対する反応や、その結果は一様ではない。テレワーク実施中に生産性が向上したと報告していた企業でも、経営陣の間には出社再開が望ましいという共通認識が生まれ始めている。だが、この認識は必ずしも全社的なものではない。

「出社義務化」への当然の反発

 多くの従業員は出社義務化に反対する傾向にある。人材採用ソフトウェアを提供するToggl HireのCEO、アラリ・アホ氏は次のように語る。「ほとんどの経営陣は依然としてテレワークを一時的措置と見なしており、持続可能な現実的解決策だとは考えていない。従業員がオフィスにいる方が管理しやすく、意思決定が迅速になり、チームビルディングも効果的にできるというのが経営陣の考えだ」。だが、従業員の方はテレワークに順応し切っている。

 出社義務化の導入はリスクを伴う。導入が適切でないと、貴重な従業員を失い、企業文化を損ない、生産性や売上高が下がる可能性がある。だが、適切に導入すれば、従業員のエンゲージメント向上やコミットするミッションの拡大が期待でき、共同作業が強化されて、結果として業績向上につながる可能性もある。

出社回帰の成否を分ける要因

 変化は苦痛を伴うものだ。だが、変化がもたらす結果には、その苦痛を乗り越える価値があることもある。多くの人事専門家は、出社義務化が肯定的に受け入れられ、効果的に導入される可能性を高めるために、あるガイドラインに沿ってオフィス回帰戦略を策定することを推奨する。ポリシーの細部は会社ごとに異なるが、成功した事例には共通要素がある。従業員が理解され、尊重され、適切に扱われていると感じられるようにすることだ。

明快で率直なコミュニケーション

 企業が大規模な組織的変更を実行するときは常に透明性が重要になる。従業員は、新しい条件や適用除外事項を把握し、自分が働く職場の状況を理解する必要がある。たとえ従業員が聞きたくないような内容だとしても、率直かつ明快に伝えれば、会社が誠実に運営されているという信頼につながる。

 Marketing Signalsのマネージングディレクターを務めるガレス・ホイル氏は次のように助言する。「新しいポリシーと会社が望むことを明確に伝え、いつ、どのような理由でオフィスに出勤する必要があるのかを従業員が正確に理解できるようにするべきだ」。同氏は、従業員が意見を出すことのできる「オープンドアポリシー」を導入し、必要に応じて経営陣が条件を調整できるようにすることを推奨する。

 決定理由を伝えることも効果的だ。変更内容だけでなく、その理由についても説得力のある説明ができれば、従業員が変更を受け入れる可能性が高まる。リモート環境で効率的に仕事をしていた従業員は、出勤することに意義を感じにくいため、オフィスで働く価値を会社が明確に示す必要がある。

 O'Connor Companyのプレジデント兼CEOのクラーク・ロウ氏はこのように述べている。「最良のオフィス回帰戦略とは、出社再開を従業員に命ずるだけでなく、その理由を示すことだ。単に『デスクに戻れ』と言うだけでは失敗する」

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段階的な導入

 2025年現在、多くの企業がテレワークやハイブリッドワークを5年以上続けている。そのため、週3日から5日の出社を新たに義務付けるという発表には、大幅な調整が必要になる。オフィスに戻ることを喜んでいる従業員にとっても、新しい勤務形態に慣れるまでは時間がかかる。こうした調整のための時間を確保すれば、オフィス回帰の義務化が成功する可能性は高まる。

 「在宅勤務中心の働き方に慣れている従業員の出社日数を増やしたければ、彼らがオフィスに戻るための時間を十分に与えることが重要だ」とホイル氏は指摘する。従業員は、保育サービスの変更や交通手段の手配、介護などの調整が必要になる可能性もある。

 オフィス回帰について従業員に前もって通知したり、必要出社日数の増加を段階的に進めたりすることは、従業員の私生活に配慮と尊重を示すことになる。人事専門家は皆、柔軟な働き方を中心に生活を築いてきたテレワーカーが、十分な事前通知もなくそうした働き方をいきなり手放すことは想定できないと述べている。そのため、こうした対応ができる会社は従業員の支持を得やすい。


 次回は、業務に使用するツールなどの観点から、オフィス回帰を成功させるために必要な準備について掘り下げる。

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