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“AI版インターネット”を構想する「Agntcy」 A2A、MCPとの違いは?AIエージェント間通信のスタンダードとなるか

非営利団体Linux FoundationがAIエージェント向け新標準「Agntcy」を採択した。Googleの「Agent2Agent」との違いは何か。大手ITが狙う「AIエージェントのインターネット」の真意を探る。

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 Linux Foundationは2025年7月、AIエージェント間の協調動作を支援する新標準「Agntcy」を採択した。2025年6月にはGoogleが類似する「Agent2Agent」プロトコルを発表したが、両者にはどのような違いがあるのか。ここではAgntcyの技術的立ち位置と活用可能性から、その独自性を明らかにする。

 「Agntcy」は2025年3月、Cisco Systemsのインキュベーション部門Outshiftの支援を受けたGalileoと、LangChainなどが中心となって結成したコンソーシアムだ。Googleは2025年6月、AIエージェント間の通信を可能にするプロトコル「Agent2Agent Protocol」(A2A)をLinux Foundationに寄贈し、同財団のプロジェクトに合流した。これに続きDell Technologies、Oracle、Red Hatも参加し、陣営は一気に拡大している。

「AIエージェントのインターネット」構築の野望

 「私たちの目標は、『AIエージェント版のインターネット』を丸ごと構築することだ。複数のエージェントをどう見つけ、どう組み合わせ、どう配備し、どう評価するか――その全てに取り組んでいる」と、Outshiftのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー、ビジョイ・パンディ氏は語る。

 AIエージェントとは、大規模言語モデル(LLM)を搭載した複数のエージェントが、互いに対話しつつ自律的にワークフローを実行するという新しい概念だ。主要クラウドベンダーやServiceNow、Atlassian、IBMなどはエージェントを一括管理する「オーケストレーター」を提供している。だが、異なるフレームワークやネットワークを横断する大規模ワークフローの実装はまだ黎明期にある。

競合プロトコルとの差別化ポイント

 Anthropicが策定した「Model Context Protocol」(MCP)は、AIエージェントとデータセットやツールを結び付ける標準だ。これに対してA2Aは、AIエージェント同士の通信方法に特化する。

 AgntcyはA2Aと一部機能が重複しながらも、A2AともMCPとも連携可能だ。開発チームによれば、Agntcyはより大規模で複雑なエージェントワークフローを想定し、ディレクトリ機能やセキュア通信を含む上位プロトコル群として差別化を図っている。

SLIMが実現する高度通信機能

 Agntcyには、低遅延で対話的なメッセージ交換を提供する「Secure Low-Latency Interactive Messaging」(SLIM)が組み込まれている。SLIMは用途に応じて次の4つの通信方式に切り替えられる。

  • request-response(要求-応答)
  • publish-subscribe(発行-購読)
  • fire-and-forget(送信後放置)
  • streaming(ストリーミング)

 SLIMは認証や認可、エンドツーエンド暗号化を一体化している。そのため追加のメッセージブローカーやVPN(仮想プライベートネットワーク)を用意しなくても、安全で低遅延な通信バスを構築できる。

 Ciscoは「AgntcyではA2AエージェントとMCPサーバをディレクトリで自動発見し、可観測性SDKで挙動を把握しながら、SLIM経由で大規模かつ安全にメッセージを交換できる」と説明する。

早期採用者が見る実用性

 AIエージェントを早期導入したCCaaS(Contact Center as a Service)プロバイダーVerintは、細かな「IAM」(IDおよびアクセス管理)が可能な点でAgntcyを高く評価している。チーフデータサイエンティストのイアン・ビーバー氏は次のように語る。「当社では役割ごとに見せる情報が違う。同じバックエンドでもオペレーターが見る内容と別のエージェントが見る内容は異なる」

 MCPだけでは公開範囲の細かな制御が難しいため、独自インタフェースを追加開発せざるを得なかったという。

 Agntcyが成熟すれば、Verintの対話型AIサービス「Intelligent Virtual Agent」(IVA)に組み込まれる計画だという。ユーザーが作成したbotをボタン1つでAgntcy登録サーバへ公開できるようにする計画だ。これにより、botの構築や運用を必ずしもVerintが担わずとも、顧客自身が自社ニーズに合わせたエージェントの労働力を形成できる。

業界が注目する標準化競争の行方

 複数の規格が乱立する現状を、アナリストは依然として慎重に見ている。ただし、大手テクノロジー企業がAgntcyを支援している点は、同プロジェクトにとって大きな追い風になると評価する。

 ITコンサルティング会社Enterprise Management Associatesのアナリスト、シェイマス・マクギリカディ氏は、以下の通り語っている。「Agntcyはエージェントを登録・検索するディレクトリと、その通信ネットワークに深く関与している。AIエージェントのインターネットを目指すなら、Agntcyが主導役になり得る。一方で、現在はまだ西部開拓時代のように混沌としており、どの技術に投資すべきか判断が難しい」。

 ITニュースサイトを運営するSiliconANGLE Mediaの調査部門、TheCube Researchのアナリスト、ロブ・ストレチェイ氏は標準化の行方について次のように指摘する。「AgntcyとA2AはすでにLinux Foundation傘下にあり、MCPも寄贈予定だ。最終的に標準が一本化される可能性は高いが、Linux Foundationは実際の貢献度で勝者を選ぶため、決定までどれだけ時間がかかるかは不透明だ。AIエージェント間通信ではネットワーク遅延の最小化が鍵となるが、既存の導入環境でも依然として課題が残っている」

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

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