“うちの料金、高過ぎ?”を回避するクラウドストレージ「コスト分析」の勘所:エグレス料金などの“隠れコスト”にも要注意
「クラウドストレージ」の投資対効果を最大化するには、定期的なコスト分析が不可欠だ。そもそもクラウドストレージのコスト分析とは何なのか。どのように進めるべきなのか。見落としがちな“隠れコスト”とは。
クラウドストレージは、ストレージシステムにスケーラビリティ(拡縮のしやすさ)をもたらす重要な手段だ。ただし適切な方針がないままに導入を進めれば、クラウドストレージのコストは急速に制御不能になる可能性がある。
ユーザー企業は適切な監視と分析によって、クラウドストレージのコストはどのような要因で構成されているのか、適切なクラウドストレージの使い方とは何なのかを理解できるようになる。結果としてクラウドストレージの価値を最大限に引き出しながら、不要なコストを避けることが可能になる。
「クラウドストレージのコスト分析」とは何か
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クラウドストレージのコスト分析は、クラウドストレージの利用で生じるコストを監視し、コストの発生パターンを特定し、実際のコストを予算と比較することを意味する。適切なコスト分析によって、ユーザー企業はクラウドストレージのコストをより明確に把握し、より適切な利用計画を立てることが可能になる。
中には、クラウドサービスの全体的な投資対効果を最大化する「FinOps」の一部として、クラウドストレージのコスト分析に取り組むユーザー企業もある。FinOpsまで規模を広げないとしても、クラウドストレージのコスト分析だけでも、ユーザー企業にとって価値のある取り組みとなる。
定期的なコスト分析は、クラウドストレージのより正確な使用状況の可視化につながる。契約したものの、未使用状態になっているクラウドストレージのリソースが見つかれば、契約を見直すことでコストを削減できる可能性がある。過去の利用状況を分析することで、過剰なコストの発見や、将来的なコストの予測が可能だ。IT投資の意思決定者は、クラウドストレージのリソース配分について、より根拠に基づいた決定を下すことができるようになる。
クラウドストレージの主要なコスト要因
IT部門は、クラウドストレージのコスト分析に取り組む際に、以下の主要なコスト要因を考慮すべきだ。
容量
クラウドストレージでは、容量をどのように確保するかに応じた、さまざまなプランを提供している。代表的なプランとして、使った容量分だけ料金を支払う従量課金の「オンデマンド」、事前に一定期間分の容量を予約購入することで、割引料金で利用できる「容量予約」などがある。利用容量が増えるほど、容量単価が安くなる「ボリュームディスカウント」が受けられる場合もある。
データへのアクセス内容
データの読み取りや書き込み、検索など、クラウドストレージはデータへのさまざまなアクセスに料金を設定している。API(アプリケーションプログラミングインタフェース)経由でのデータへのアクセスにも課金することがあるので、ユーザー企業はデータへのアクセス実態を網羅的に明確化することが必要だ。
データへのアクセス頻度
クラウドストレージベンダーは、データへのアクセス頻度に応じた「ストレージ階層」のニーズに合わせて、さまざまなプランを用意する。ユーザー企業は必要なストレージ階層に対して、クラウドストレージで利用可能なプランは何か、そのプランの選択がコストにどのように影響するのかを評価する必要がある。
頻繁なアクセスが発生する「ホットストレージ」向けプラン、長期的な保管を目的とした「アーカイブ」向けプランなどが、クラウドストレージの代表的なプランだ。ホットストレージ向けプランの方が、アーカイブ向けプランよりも容量単価が高くなる一方、データのアクセス料金が安くなる傾向がある。アーカイブ向けプランでデータへの頻繁なアクセスが発生すると、アクセス料金が高くなる。自信を持って適切なプランを選択するために、データの使用状況とアクセス頻度を明確化する必要がある。
データ転送
アップロードやダウンロードといったデータ転送に対して、クラウドストレージがどのような料金を設定しているのかを理解することが重要だ。異なるプランのクラウドストレージ間や、そのクラウドストレージが利用するデータセンター間のデータ転送に必要な料金も調べる必要がある。データの転送頻度によっては、コストの大幅な変化につながり得る。
保管データ量
保管するデータ量は、クラウドストレージの長期的なコストに影響する。特にバックアップやアーカイブの規模は、ユーザー企業のビジネスの成長とともに、増大し続ける可能性がある。今後保管し得るデータ量を定期的に予測し、現状の保管状況を確認することが必要だ。
ベンダーロックイン
ユーザー企業が単一ベンダーのクラウドストレージに依存し過ぎると、他ベンダーのサービスに移行しにくくなる「ベンダーロックイン」に陥る可能性がある。ベンダー独自の機能や技術でシステムを作り込んだ場合、他ベンダーへの移行が技術的に困難になることは珍しくない。ベンダーとの契約内容によっては、他ベンダーへの移行時に相当なコストが発生することもある。
“隠れコスト”に注意
さまざまなクラウドストレージ関連コストの中で、見落としやすい“隠れコスト”の要因には、以下が含まれる。
エグレス
利用中のクラウドストレージから、他ベンダーのクラウドストレージまたはオンプレミスストレージへの移行に伴うデータ転送は「エグレス」と呼ぶ。クラウドストレージベンダーは基本的に、データの転送量に基づいてエグレス料金を請求する。
データの保存地域
一般的なクラウドストレージは、ユーザー企業の可用性を最大限に確保できるように、適切な地域のデータセンター群にデータを保存する。一部の業界では法律や規制によって、特定の地域にデータを保存しなければならないことがある。複数の地域にデータのコピーを保持する必要がある場合は、クラウドストレージのコストが増加する可能性がある。
想定以上のアクセス頻度
前述の通りクラウドストレージの料金設定は、データへのアクセス頻度に基づいている。アクセス頻度が比較的低いアーカイブ向けのプランは、データの容量単価は安くなる一方、データのアクセス料金は高くなる傾向がある。頻繁にアクセスが発生するデータをアーカイブ向けプランで保存していると、結果的にコスト総額の増加につながる可能性がある。データアクセスに関するニーズと、関連する料金を理解することで、発生するコストを見積もりやすくなる。
マルチクラウドおよびハイブリッドクラウド環境
複数ベンダーのクラウドサービスを併用する「マルチクラウド」が珍しくなくなり、クラウドサービスとオンプレミスシステムを組み合わせる「ハイブリッドクラウド」が当たり前になった。ストレージシステムについても同様であり、システム構成が複雑化する中、各システムを効率的に運用するためのオーケストレーション(システムの構成や設定の自動化)製品の追加導入や、人的リソースの育成・確保などが、コストに直結する。
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