IT系の職場から女性を遠ざける「IT系男子」の過酷な文化:IT業界の“時代錯誤な人材問題”【第3回】(1/2 ページ)
IT分野では、教育や採用だけでなく、職場におけるバイアスや文化的障壁によってもジェンダーギャップが生まれている。それが女性をIT分野から遠ざける一つの要因となっている。
IT業界に女性が少ないという現実を生む要因の一つになっているのが、教育と雇用の間にある壁だ。第2回「『女子は数学ができない』という誤解が“IT人材不足の原因”だった?」では、女子学生が中高生の段階からSTEM(科学・技術・工学・数学)分野を選びにくくなっている現実を紹介した。
だが問題はそれだけではない。仮に教育や採用の壁を乗り越えてIT分野でキャリアをスタートさせても、女性は職場で「男性優位文化」という新たな壁に直面する。
会議での発言をさえぎられたり、食事の手配など本来の職務とは関係のない役割を押し付けられたりするケースは珍しくない。こうした無意識のバイアスや軽視の積み重ねが、女性を「IT業界では歓迎されていない」と感じさせ、離職や転職につながっているのだ。
「IT系男子」という過酷な文化
併せて読みたいお薦め記事
IT業界における女性の本音
雇用におけるバイアスなどの障壁によって、テクノロジー分野の職に進む女性が減少し、それがさらなる文化的な悪循環を引き起こしている可能性がある。IT認定資格を授与する非営利業界団体CompTIAで業界調査担当バイスプレジデントを務めるキャロリン・エイプリル氏は、テクノロジー職に就く女性が少ないことが、意識的・無意識的なバイアスを助長し、文化的障壁をさらに高めていると指摘する。例えば、女性がテクノロジーチームで働く際や会議に参加する際、自分以外に女性がいないことに気付くことは珍しくない。そうした職場では、女性が会議の議事録作成や食事の手配などを任される傾向がある。こうした役割の押し付けは、業務遂行能力を正当に評価される機会や、男性と同等の貢献者として扱われる機会を制限する恐れがある。
テクノロジー職の女性は、同僚の男性から一方的なアドバイスや説明を受けると感じることが多く、「IT系男子」文化が支配的な一部の職場環境では、疎外感を覚えることもある。
WomenTech Networkの調査によると、以下のような実態が明らかになっている。
- 会議中に話を遮られた経験がある女性:64%
- 性別に基づく役割や業務の割り当てを感じたことがある女性:19%
- 会議中の食事手配を依頼された経験がある女性:11%
女性を職場の片隅に追いやり、重要性の低い存在として扱う文化は、微妙な差別や無意識の差別を助長し、重大な影響を及ぼす。エイプリル氏は、こうしたバイアスや無意識の攻撃(マイクロアグレッション)によって、女性が職場を不快に感じるようになる可能性があると述べる。このような行動が全ての組織に存在するわけではないが、目に見えるレベルで問題が顕在化している職場は決して少なくない。
人材パイプラインから外れていく女性
自分が標的にされていると感じたり、周囲との違いを強く意識させられたりする状況は、心身の消耗やモチベーションの低下を招く。その結果、女性はより歓迎され、安心して働ける環境を求めて職場を離れるようになる。エイプリル氏によれば、テクノロジー職を離れ、より摩擦の少ない周辺業務へと移る女性は少なくないという。出産や育児をきっかけに離職するケースも多く見られる。このような傾向が続くことで、テクノロジー職において女性が上層部へと昇進する機会が減り、結果としてロールモデルとなる女性リーダーの数も少なくなると、同氏は指摘する。
この状況が、ジェンダーに基づく不均衡を一層固定化している。エイプリル氏によれば、女子学生や若手の女性技術者は、女性幹部の不在を「ジェンダーバイアスが依然として根強く残っている証拠」あるいは「今後も状況が改善されない兆し」と受け止めがちだという。
賃金と昇進におけるジェンダーギャップ
人材サービス企業Lamoreaux Searchの社長兼CEOで、ポッドキャスト「Diverse Tech Leaders」のホストを務めるクリステン・ラモロー氏は、テクノロジー分野に残るジェンダーバイアスが、女性と男性の間で賃金格差を生む一因になっていると指摘する。こうした見解を裏付ける統計もある。米国のキャリア情報サイト「Dice.com」の調査によれば、テクノロジー職における男性の平均年収は約11万4000ドルであるのに対し、女性は約9万9000ドルにとどまっている。
同じ職場に5年以上とどまる人の割合は、男性が31%であるのに対し、女性は22%と低い。テクノロジー職における正社員の割合も、男性が85%、女性が80%と、やや差がある。企業内で最高位の役職(CIOやCTOなど)に昇進する女性はごくわずかであることも明らかになっている。
テクノロジー人材サービス企業Nash Squaredが2023年に発行した「Digital Leadership Report(デジタルリーダーシップレポート)」によると、デジタル分野のリーダーに占める女性の割合はわずか14%に過ぎなかった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
