「オンプレミス回帰」の波に乗るBroadcom ライセンス変更の“本当の意図”:プライベートクラウドを再定義
パブリッククラウドから「オンプレミス回帰」する潮流を追い風に、VMwareを買収したBroadcomが自社の戦略推進を加速させている。プライベートクラウドを中核に据えた戦略で、Broadcomは何を狙っているのか。
企業のIT部門は、アプリケーションの稼働場所の見直しを進めている。オンプレミスシステムからパブリッククラウドへの移行というトレンドを経て、近年はオンプレミスシステムに回帰し、プライベートクラウドとして運用する動きが顕著だ。
この潮流を好機と捉えているのが、2023年に仮想技術ベンダーVMwareを買収した半導体ベンダーBroadcomだ。Broadcomの経営幹部は、同社の「VMware Cloud Foundation」(VCF)を中心とした戦略を明らかにした。VCFはプライベートクラウドの構築から運用までに必要なソフトウェア一式をまとめたパッケージ製品であり、同社はこれをユーザー企業やパートナー企業における標準ツールとして普及させることを目指している。
Broadcomが描く“野望”
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Broadcomの戦略
Broadcomでアジア太平洋および日本地域のプレジデントを務めるシルバン・カザール氏は、「企業は自社のデータセンターへの再投資に意欲的で、プライベートクラウドを事業運営の中核に据え始めている」と語る。これは必ずしもパブリッククラウドの否定ではなく、むしろ企業がパブリッククラウド活用の経験を重ねる中で、アプリケーション最適な配置を再検討した結果だという。
企業はプライベートクラウドの導入を進めている。カザール氏は、担当するアジア太平洋地域での導入例として、レガシーなメインフレームを刷新してプライベートクラウドを選択する日本企業、VCFで新たなシステムを構築しているインドの銀行や地方政府を挙げた。具体的な顧客としては日本のNTTドコモ、インドのState Bank of India、フィリピンのMetropolitan Bank & Trustの他、韓国やオーストラリアのさまざまな政府機関や企業が含まれる。
企業によってクラウドサービス活用の段階が異なることを踏まえて、Broadcomは企業のプライベートクラウド移行を段階的に進めるための導入プランを用意している。同社でアジア太平洋および日本地域のクラウドトランスフォーメーションオフィスを率いるサチン・シュリダール氏は、次のように説明する。
「VCFは多様な機能を搭載しているため、企業がさまざまな方法でプライベートクラウドを導入することを後押しする。これによって企業はできるところから移行を進めることができる。仮に今日ストレージを刷新できなくても、コンテナの実行環境は刷新できるといった具合だ」
円滑な移行を後押しするため、Broadcomは移行準備状況の評価ツールやコンサルティングサービス、製品導入時に利用可能なクレジットの他、パートナー企業向けのトレーニングプログラムも提供している。
プライベートクラウドの再定義
カザール氏とシュリダール氏は、VMwareが提唱するプライベートクラウドの定義が、従来の概念とは異なることを強調する。まずカザール氏は、その概念を「オンプレミスシステムとパブリッククラウドを個別に運用する、旧来のハイブリッドクラウドの考え方から脱却し、VCFによって運用方法の違いをなくすことだ」と語る。
続いてシュリダール氏は、その概念を実現する具体的な仕組みとして「ハードウェアの物理的な場所を問わず、VCFという共通のツールで、自社のセキュリティポリシー、コンプライアンス、運用手順を一度に適用できること」だと補足する。この仕組みによって、個別のシステム管理に存在する複雑さや人為的ミスのリスクを軽減できるという。
「プライベートクラウドだからといって、パブリッククラウドである『Amazon Web Services』(AWS)を利用できないわけではない。むしろ合理的なら積極的に利用すべきだ」とシュリダール氏は述べる。2025年8月に、VCFがオブジェクトストレージサービス「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)互換のストレージを標準で扱えるようになったことは、場所を問わずに一貫した運用体験を創出しようとする同社の姿勢の表れだ。
VCFを含むVMware製品のライセンス体系をサブスクリプションに一本化することについて、カザール氏とシュリダール氏は明確な姿勢を示す。「VCFの価値を企業に届けるには、サブスクリプションが中核を成すと確信している。このモデルがなければ、VCFのメリットを最大限に引き出すことはできない」とシュリダール氏は語る。
カザール氏も、この移行はIT業界の潮流に沿ったものであり、Broadcomの戦略にとって不可欠な一歩だと説明する。「永続ライセンスを提供し続ける大手ベンダーはごく限られた数になっていた。システムの応答速度や運用費に悩みながら、古い永続ライセンスに固執するのは、重大な機会損失だ」(同氏)
VCFの販売戦略の一環として、Broadcomはパートナープログラム再編の動きを見せている。複数のパートナー企業への通知によると、これまで広範な企業を対象にしていたパートナープログラム「VMware Cloud Service Provider」を廃止し、2025年後半からは招待制のプログラムに移行する計画だ。
カザール氏によると、この変更によってBroadcomは、提携するサービスベンダーをVCFに注力する優良なパートナー企業に絞り込めるようになる。その結果、自社データセンターでVCFを利用するユーザー企業は、同社認定パートナーが運営するソブリンクラウド(特定地域におけるデータ保護規制を順守できるよう、データをその地域内に保管することを保証するクラウドサービス)に、容易にアプリケーションを展開できるようになる。ユーザー企業とパートナー企業の両方がVCFを用いてシステムを構築、運用していることが前提であるため、技術とライセンスの両面で、完全な互換性が確保されているからだ。
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