AIは「人事の仕事」を奪うか? 自動化できる業務、人間がやるべき業務:「感情」「戦略」はAIには難しい
AI技術の進化が、人事部門の在り方を根本から揺るがしている。定型業務の自動化が進む一方、AIツールには踏み込めない領域も存在する。人事部門が知っておくべき「AIに任せられる業務」「人間固有の業務」とは何か。
AI(人工知能)技術の発展によって、人間が実施する必要がなくなる人事業務もあれば、依然として人間の関与が不可欠な業務も存在する。AI技術がスケジュールの調整や書類作成といった単純な業務を肩代わりする中で、人事担当者はより戦略的、分析的、創造的な役割に集中できるようになってきた。
本稿は、AIツールが実行可能な人事業務と、引き続き人事担当者が担うべき業務を解説する。
AIが変革をもたらす5つの人事業務
AIツールを導入することで、自動化が可能になる人事業務の例を5つ紹介する。
AI活用領域1.管理業務
福利厚生に関する問い合わせ、休暇申請の承認、書類の回付といったタスクは、チャットbotや従業員向けのセルフサービスツールによる自動化が進んでいる。これらの業務を自動化すれば、人事担当者が介在する必要がなくなるため、従業員からの他の要求に迅速に応えられるようになり、業務効率の向上が期待できる。
AI活用領域2.採用とオンボーディング
AIツールを使えば、ジョブディスクリプション(職務記述書)の草案作成、潜在的な候補者の特定、特定の応募者に合わせたスカウトメッセージの作成などが可能だ。採用プロセスの初期段階を自動化することで、候補者の選考にかかる時間を短縮し、候補者体験の向上にもつながる可能性がある。
あらかじめ登録した情報で簡単に応募できる「ワンクリック応募」などの仕組みによって応募書類が大量に増えた場合、その処理においてもAIツールは人事担当者を支援できる。新入社員向けのオンボーディング(受け入れ)を個別に最適化し、新入社員が業務を習得するまでの時間を短縮することも可能だ。
AI活用領域3.学習と能力開発
AIツールは、社内の業績データを基に、従業員に学習計画を推奨したり、各従業員の役割やスキルに応じて研修プログラムを割り当てたりできる。個人に最適化された学習プランの推奨は、研修コースの修了率向上が見込める。
AI活用領域4.業績管理の分析
人事部門は、業績管理にAIツールを活用することで、企業全体における従業員の業績パターンを特定できる。高い業績を上げる従業員に共通する特性を見いだす上でも、AIツールは役立つ。
AI活用領域5.データに基づく意思決定の支援
AIツールは、人事業務のさまざまな分野において、データに基づいた意思決定を実現する。後継者の育成計画、人員予測、研修や能力開発の必要性の判断、報酬の比較基準の設定など、多様な分野で人事担当者の意思決定を助ける。
引き続き人間が担うべき4つの人事業務
定型的な業務の一部をAIツールが担うようになると、人間ならではの能力が一層重要になる。以下では、人間の判断と監督が不可欠な業務を4つ挙げる。
人間固有領域1.戦略的な監督
現状のAIツールには、長期的な戦略的視点や、感情の機微をくみ取る能力が欠けている。組織設計、経営幹部へのコーチング、戦略立案などはAIツールが不得手な領域だ。これらの分野における業務は、引き続き人事担当者が実行する必要がある。
人間固有領域2.企業文化とウェルビーイング
信頼関係の構築や良好なリーダーシップの発揮など、前向きな企業文化の醸成に寄与する活動には、人間的な配慮が欠かせない。AIツールは、経営幹部が作成したメールの文面について、異なるトーンを提案するなど、問題を指摘することはできる。しかし、従業員間の連帯感や建設的な意見交換ができる場を育むための行動は、人間が実践しなければならない。
従業員の功績をたたえたり、報酬を与えたりするといった、従業員のウェルビーイング(心身の健康や幸福)に関する取り組みにおいて、AIツールは補助的な役割は担えても、主導的な役割は果たせない。
人間固有領域3.高度な判断を要する決定
リスクがある業績上の問題や従業員間の対立を解決するには、人間による思慮分別が必要になる。AIツールが人間関係のあつれきを緩和したり、対立を仲裁したりすることは難しい。特定の状況にどう対処すべきか提案はできても、最終的な判断は人間が下さなければならない。
人間固有領域4.AIツールの監視
AIツールの決定には、人間の監督が不可欠だ。人事担当者は、アルゴリズムの公平性、偏見(バイアス)、コンプライアンス(法令順守)の問題など、AIツールの利用によって生じ得る問題を認識しておく必要がある。従業員データを処理するAIツールは、人事部門による監視が必須だ。
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