心読まれちゃう? NTTが脳内映像の「言葉変換」に成功 リスクは:マインド・キャプショニングとは
NTTはAIを活用し、脳内映像をテキストに変換する技術開発に取り組んでおり、このほど、研究の成果を発表した。同社は研究を通じて何を実現しようとしているのか。研究成果を説明する。
心に思い浮かべた映像を言葉に変換する「脳解読技術」を、NTTが開発している――。
NTTは、AI(人工知能)技術と言語モデルを使い、人が見たり思い浮かべたりした映像の内容を脳活動データから文章化する技術「マインド・キャプショニング」の開発を進めている。同社は2025年11月17日、あらかじめ記憶した映像を想起しているときの脳活動にこの技術を適用し、想起された動画の視覚内容に関するテキスト記述を生成することに成功したと発表した。
言葉を使わずに自分の考えを相手に伝える新しいコミュニケーション手段は近々、登場するのか。
マインド・キャプショニングの「用途」と「リスク」
この技術は、脳活動のパターン解析によって心や身体の状態を解読する「脳情報デコーディング」と、高度な表現の生成能力を備えたAIモデルを組み合わせた仕組みだ。脳内の意味情報と整合性の高いテキストの生成を可能にしているとNTTは説明する。
NTTによると、この技術を使い、人間が「見た」「想起した」映像に関する非言語的内容を言語へ変換できることを実証した。これは、「言語的思考を再構成するのではなく、非言語的思考を言語へ翻訳して解釈可能にする、新たな脳情報デコーディングの可能性を切り拓く試みだ」と同社は述べている。
この技術は今後、発話困難者の意思伝達支援や、言葉を用いずに感情や意図を伝達するコミュニケーション手段の実現に寄与することが期待されるという。NTTの研究成果は2025年11月5日(米国東部時間)に、米国科学誌『Science Advances』のオンライン版に掲載された。
NTTはマインド・キャプショニングの有効性を検証するために、動画を見ているときの脳活動を用いたテキスト生成を実施した。その結果、何の事前情報も持たない「unk」という単語から始めても、最適化を繰り返すことで徐々に見ている映像に含まれる内容を反映した単語が生成。100回後には動画全体を的確に説明する記述が得られたという。
NTTによると、記憶した動画を想起しているときの脳活動に同じ手法を適用することで、想起内容を記述するテキストの生成にも成功した。
「心的プライバシー」にも注意
脳活動から心に思い浮かべた内容を記述するテキストを生成するNTTの研究は、個人の「心的プライバシー」を侵害する恐れがあるという。研究では、実験参加者から明示的な同意を得、1人当たり延べ17時間に及ぶ脳活動計測を複数日にわたって実施した。将来は、より少ないデータから個人の思考内容を解読できる可能性があるとNTTはみている。その際、本人の意思に反して、まだ言語化されていない思考内容が推定されるリスクがあるので、「研究の健全な発展と個人の精神的自律の両立を図ることが極めて重要になる」と同社は強調する。
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