「AIではなく人間と話したいのに」にどう答える 顧客満足に貢献するAI活用とは:顧客離れの遠因にも
AIによる顧客対応が、顧客満足度の向上や企業の利益増加に必ずしも結びついていないという見方がある。顧客対応にAIを使っている企業はどのような点に注意すればいいのか。
顧客対応における人工知能(AI)技術の活用が広がりつつある。一方、AIの活用が顧客満足度を高めることに必ずしもつながっていない、企業が当初期待したほどの利益を得られていないという声がある。さらに、「AIを顧客対応に活用する企業を忌避する」という調査結果も存在する。
では、顧客対応システムにすでにAIを組み込んでいる企業はどのような点に留意すればいいのか。
調査が示す“人間による対応”の重要性
筆者自身も、ある企業への問い合わせでこの問題を実感した。1週間近くの間、挙動が不安定だったあるサービスがあった。そのサービスを提供する企業からは「問題の解決に取り組んでいる」旨の自動通知のみが届いた。3通目の自動通知が届いた頃、問題が解決に向かっている兆候が見られなかったため顧客対応部門に電話したところ、AIの自動応答に遮られて人間の担当者と話すことはできなかった。AIチャットbotとのチャットを開始したところ、再度自動応答に遮られてしまった。
顧客対応部門におけるAIの導入や活用は進んでいるが、顧客はその恩恵を感じているのか。
CCaaS(Contact Center as a Service)プロバイダーVerintの2025年の調査では、回答者の56%は「AIよりも人間の担当者との対話を」、44%は「AIの使用を」希望していると答えた。同調査は、2025年1月25日〜2月28日、オンラインで米国の消費者5000人に実施したものだ。
2023年12月、調査会社Gartnerが5728人の消費者を対象に実施した調査では、回答者の64%が「企業が顧客対応にAIを使用しないことを望んでいる」と答え、53%は「顧客対応にAIを導入する企業から同業他社に乗り換える可能性がある」と回答した。顧客対応でAIを活用することにどのような懸念を持つか尋ねた質問では、「AIが介入することで、人間の担当者と対話する機会が減った」が最多となった。
コンサルティング会社McKinsey & Companyが2025年11月に公開したレポートによると、AIの導入によって最大30%のコスト削減が可能だという。
しかしその代償として、顧客が求める共感や個別対応の質が損なわれている可能性がある。台本通りの対応ではなく、企業が自分を大切にしてくれているという実感が顧客にとっては重要であり、それをAIが提供することは困難だという見方もある。
ビジネス関連の情報を提供するWebサイト「BusinessDasher」を運営する調査会社BusinessDITが2024年9月に公開した調査結果によると、新規顧客の獲得には、既存顧客の維持に比べて5倍から25倍のコストがかかる。既存顧客に対しての販売成功率は60〜70%であるのに対し、新規顧客では5〜20%にとどまる。
2024年10月〜11月、Gartnerが最高営業責任者(CSO)とシニアセールスリーダー243人に実施した調査によれば、2025年に既存顧客からの成長を優先する方針を示したCSOは73%に達し、57%が「既存顧客の維持と成長」を最優先課題と捉えている。
こうしたデータからも、「顧客ロイヤリティー」(顧客が商品やサービスに感じる信頼や愛着)の重要性は明白だ。
AIによってコストを削減できる可能性はある。しかし、AIはあくまで人間の業務を補完するためのツールであることを忘れてはならない。特に顧客対応においては、人的な対応が不可欠だ。
従業員に対してAIを「代替手段」ではなく「支援手段」として提供することで、従業員の価値を尊重することが重要になる。顧客に対しても同様だ。AIのループから抜け出して人間の対応を受けられる選択肢を常に用意しておくことが求められる。
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