レガシーシステムは捨てなくてOK オンプレミスを「AIのデータ源」に変える方法:オンプレミスの“呪縛”からデータを救う
クラウド全盛期を迎えても、企業はいまだにオンプレミスのレガシーシステムに依存している。「技術的負債」を抱えた状態で、無理なシステム移行をせずにAI活用を進めるにはどうすべきか。事例を基に解決策を探る。
企業のレガシーシステムは、今なおビジネスの中核的存在だ。データ統合製品ベンダーSnapLogicでCTO(最高技術責任者)を務めるジェレミア・ストーン氏は、同社のイベント「Integreat 2025 Tour」のロンドン講演(2025年11月開催)において、レガシーシステムのモダナイゼーション(近代化)に関する問題点を指摘した。それは、モダナイゼーションの多くが、ビジネス価値の観点からは現状維持に過ぎない作業になりがちだということだ。これらのシステムには、膨大な時間とエネルギーが注ぎ込まれてきた。
「本来なら、レガシーシステムは刷新したりモダナイズしたりする必要はないはずだ。度重なる改善を経て業務に適合した形になっており、ビジネスを運用するために不可欠な存在として完成されているからだ」(ストーン氏)
ストーン氏によれば、ITリーダーが直面している大きな問題は「厳しい現実」にある。ビジネス要件の変化によってレガシーシステムが期待通りに機能しなくなる、あるいは新しいツールや技術が登場しても、レガシーシステムとはうまく連携できないといった事態が発生しているのだ。
レガシーシステムとAIをつなぐ“最適解”
イベントの主要テーマだった人工知能(AI)技術は、レガシーシステムと相性が悪い技術の一つだ。
イベントのプレゼンテーションにおいて、製薬会社Boehringer Ingelheimのエンタープライズデータおよびプラットフォーム責任者であるラルフ・シュンデルマイヤー氏は、同社がAI技術を受け入れるためにどのように適応してきたかを語った。「AI技術にはデータが必要だ。データなしにAIモデルは動かない。良質なデータが必要であり、データをAIモデルが読み込める状態(AI-ready)にしなければならない」と同氏は言う。
Boehringer IngelheimのAIおよびデータ戦略「Dataland」は、現場担当者がデータの統合や活用を実施する「セルフサービス」型を採用している。この戦略を支えるために、Boehringer IngelheimはSnapLogicのサービスを利用している。
「われわれは非常に古い企業であり、長年にわたってデータを収集してきたが、こうしたデータの一部は、非常にアクセスしづらいレガシーシステム内にある」とシュンデルマイヤー氏は説明する。それらのレガシーシステムのほとんどにはAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)がなく、データカタログも整備されていないという。
Boehringer IngelheimはSnapLogicの製品を活用して、レガシーシステム内のデータを参照できるようにし、各システムに散在していたデータを集約して、全社的なデータ一元管理システムを構築した。
ITトレンドの移り変わりを経験してきたSnapLogicは、データソースを接続し、業務システムを連携させるための現代的なミドルウェアを提供している。「われわれが扱っているシステムのほとんどは、1995年から2006年の間に出荷されたものだ」とストーン氏は言う。
当時のIT業界は、異なるサービスを組み合わせてシステムを構築する「サービス指向アーキテクチャ」(SOA)のように、自社でオンプレミスシステムを運用することを前提としたシステム設計が主流だった。エンタープライズアプリケーションの大半が、クラウドコンピューティング登場前の技術で構築されていたのだ。そのため、クラウドサービスへの移行が進む一方で、企業システムは以前としてオンプレミスのままで運用されている。ストーン氏の見積もりでは、企業システムのクラウド移行率はまだ50%を超えていない。
だがレガシーシステムのモダナイズは必要だ。調査会社Aragon Researchのリサーチ担当バイスプレジデントであるベッツィー・バートン氏によると、企業はレガシーシステムを更新しながらDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させ、経費を抑制する方法をいっそう求めている。
AIモデルの能力を引き出すためにデータが不可欠なことを踏まえ、SnapLogicは企業のレガシーシステムとAIエージェントの連携機能強化に注力している。レガシーシステム内には貴重な企業データが眠っているため、同社はこのようなレガシーシステムを企業のAI戦略に組み込むための支援に商機を見いだしている。その一環として発表した「SnapLogic Intelligent Modernizer」は、レガシーシステム内のデータやアプリケーションの移行を効率化するためのツールだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.