「コードを書かない情シス」が詰む瞬間 大企業と中小で違う”代償”:運用自動化とIaC時代に潜む“責任の罠”
「情シスはコードを書くべきか」。この判断を誤ると、大企業では「説明責任」で、中小企業では「運用破綻」で詰むことになる。本稿ではそれぞれのリスクを解説する。
「情シス部員はコードを書くべきか」──この議論は、しばしば精神論やスキル論で終わってしまう。だが現場の実態はもっと残酷だ。その判断ミスは、システム障害やインシデント発生時に、取り返しのつかない「詰み」となって情シスを襲うからだ。
本稿で定義する「コード」とは、業務アプリ開発のことではない。PowerShellなどのスクリプトやIaC(Infrastructure as Code)による構成管理を指す。Informa TechTargetやComputer Weeklyの記事を基に検討すると、企業規模によって「致命傷」になるポイントが全く異なることが見えてきた。
大規模企業が陥るわなは「ブラックボックス化による説明不能」であり、中小規模の企業のそれは「手作業による運用破綻」だ。では、具体的にどこまでを内製し、どこからを任せるべきなのか。
合理的な判断が裏目に出る
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大規模企業の情シス部門では、業務の中心は企画やベンダー管理になりがちだ。「コードを書く必要はない」という判断は一見合理的だが、それが裏目に出る瞬間がある。それは、システム障害やセキュリティインシデントが発生した「有事」の瞬間だ。
大規模企業情シスが詰む瞬間:「説明責任」という壁
自動化スクリプトやIaCによって構成された環境でトラブルが起きた際、情シスは経営層や広報部門から必ず説明を求められる。「なぜその設計を承認したのか」「なぜ復旧に時間がかかっているのか」
この時、コードの中身を理解できなければ、情シス担当者は「ベンダーに確認中です」「ベンダーの報告によれば……」という言葉を繰り返すことしかできない。これは平時には許されても、緊急時には「当事者能力の欠如」と見なされる。ブラックボックス化した運用の承認責任だけを負わされ、自分自身を守る材料を持てない状態――これが大企業情シスにとっての「詰み」である。
Computer Weeklyは記事の中で、現代の管理者には「Automation(自動化)」「Scripting(スクリプティング)」「Version control(バージョン管理)」が必須だと指摘している(出典:Six essential skills for system administrators and Infrastructure-as-Code pros)。これらは単なる技術トレンドへの追従ではなく、人的ミスや属人化を防ぐための基盤だからだ。
ここで重要なのは、「自分でゼロから全部書けるか」ではない。少なくとも「ベンダーが書いたコードを読めること」「設計の良し悪し(論理的な欠陥)を判断できること」が求められる。いわば「コードレビュー」のスキルこそが、大企業情シスの身を守る盾になると言えるだろう。
中小規模企業の情シスが詰む瞬間:「運用破綻」へのカウントダウン
一方、中小規模企業の情シスにとって状況はより切実だ。人員は限られ、運用、設定変更、障害対応までを少人数で担うケースが多い。「コードは任せる」という選択肢を取りたくても、予算や時間の制約で外注できないことが多いからだ。この環境でスクリプトや自動化を避けて「手作業」を選択すると、別の形で詰む。
自動化されていない運用は、属人的な手作業に依存する。設定変更の履歴は曖昧になり、ログの突合や棚卸しは後回しになる。いざインシデントが起きた時、状況を再現できず、原因究明が進まないまま時間だけが過ぎていくことが考えられる。
Informa TechTargetは記事の中で、IaCが求められる理由として「手動設定による構成のばらつき(Configuration Drift)」や「設定ミス」「セキュリティリスク」を挙げている(出典:What is Infrastructure as Code (IaC)?)。コードで管理されていない環境は、トラブルシューティングが困難になり、復旧が遅れると警鐘を鳴らす。
中小規模企業の情シスにとっての「詰み」は明確だ。システムが止まれば業務が止まり、その復旧作業で現場が崩壊する。この環境では、ログを集め、突き合わせ、一覧にする程度の「生存のためのスクリプト」を書けるかどうかが、文字通り情シスの寿命を左右するだろう。
結論:「書くか、任せるか」ではなく「線引き」を決めよ
大規模企業と中小規模企業で状況は違うが、共通する敵がいる。それが「システムのブラックボックス化」だ。
Computer Weeklyは記事において、IaCや自動化を前提とした運用に移行できない企業は、コスト増や運用品質低下、障害リスク増大に直面すると指摘している(出典: Infrastructure-as-Code in 2023: What enterprises need to know)。
コードを書かない、理解しないという判断は、短期的には楽に見える。しかしその結果、環境が「触れない」「説明できない」ものになった瞬間、情シスは選択肢を失うだろう。
本稿の結論は以下の通りだ。
- 大規模企業情シス:コードを書く必要はないかもしれないが、「読めなければ」責任を果たせない。ベンダーの納品物を監査するためのリテラシーを持つ必要がある。
- 中小規模企業の情シス: 高度な開発は不要だが、運用を自動化するスクリプトが「書けなければ」現場が回らない。それは業務効率化ではなく、生存戦略と言えるだろう。
重要なのは、自社のリソースとリスクを天秤にかけ、どこまでを内製(自分たちでコントロール)し、どこからを任せる(ブラックボックスを許容する)のか、その「線引き」を情シス自身が意識的に決定することだ。この現実を直視しない限り、コードを巡る判断のツケは、次のシステム障害で必ず回ってくる。
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