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将来のIT部門はAIエージェント頼りに? ITリーダーが今やっておくべき備えはまずは内製と外注の切り分けから

AIエージェントの活用が進む中、専門家はIT部門のリーダーに対して「IT部門の将来的な変化に備える必要がある」と指摘する。具体的に何をすればいいのか。

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 2025年10月に開催されたForrester Researchの年次イベント「Technology & Innovation Summit EMEA」(以下、同イベント)での主要な議題は人工知能(AI)技術だった。しかし、議論の焦点は「AIエージェントを業務でどのように活用するか」から、「AIエージェントを中心に、将来のIT部門はどのように変化するか」に移行していた。本稿は、AIエージェントを活用しているIT部門のリーダーが「今準備しておくべきこと」「将来に備えておくべきこと」を専門家の見解を基に紹介する。

IT部門のリーダーが準備しておくべきこととは

 Forrester Researchのマーク・モッチア氏(バイスプレジデント兼リサーチディレクター)は、同イベントを基にしたブログ記事を2025年10月に公開した。同氏は記事において、最高情報責任者(CIO)の3分の1は将来、「ギグワーカープロトコル」を導入すると予測している。同氏によると、将来のIT部門は、インターネット経由で単発や短期の仕事(ギグワーク)を請け負う労働者を意味する「ギグワーカー」や、AIエージェント、複数の仕事を掛け持つ従業員で構成されるという。ギグワーカープロトコルは、そのようなメンバーで構成されるIT部門を構成、管理するためのルールや基準を指す。

 Forrester Researchのマニュエル・ガイツ氏(プリンシパルアナリスト)は同イベントの基調講演で、ITリーダーに向けて将来のIT部門の変化に備えるよう促した。

 そのための取り組みの1つが、情報や知識を整理し、体系化するための枠組みを意味する「オントロジー」の活用だ。ガイツ氏によると、将来のIT部門では、人間の従業員とAIエージェントが、それぞれ業務を分担するためのワークフローを構築する可能性がある。そこで、オントロジーを用いて社内の専門知識を整理、蓄積し、AIエージェントが理解、活用できるようにすることが重要だという。さらに同氏は、AIエージェントが人間の従業員の支援を受けながら、専門知識やスキルを社外に提供したり収益化したりする仕組みを構築する可能性があることを示唆した。

 Boston Consulting Group(以下、BCG)のジェシカ・アポセカー氏(マネージングディレクター兼最高マーケティング責任者(CMO))はITリーダーに対して、業務のどの部分を自社で戦略的に保持し、どの部分を自動化あるいは外部委託するべきかを再考する必要があると強調する。「自社で担うべき工程はどれか? それを外注や自動化プロセスとどう結び付けていくかを明確にする必要がある」

 「AIによって顕著なビジネス成果を得ている企業の多くは『AIファースト』の戦略を採用している。人間の役割と業務のあり方を、AIを利用する前提で再構築している」。アポセカー氏はBCGの調査を援用し、このように説明する。AIファーストとは、既存の業務フローやタスクの自動化にAIエージェントを活用するのではなく、企業の中枢にAIエージェントを据え、意思決定やワークフローの設計、戦略の立案などに役立てる考え方だ。

 アポセカー氏は「AIファーストのワークフローを考えるには、“作るべきもの”と“調達すべきもの”を見直さなければならない。『内製か外注か』という判断基準が、AI時代においても最適とは限らない。むしろ、外部委託先が自身の工程をAIエージェントで自動化することこそが求められる」と話す。

 Accentureのプレム・アナンタクリシュナン氏(グローバルソフトウェアプラクティスリード)は自身のポッドキャストで、企業の業務プロセスにAIが与える影響について言及し、ソフトウェアに対するユーザーの考え方にも変化が起きていると指摘する。

 アナンタクリシュナン氏は、ガイツ氏やアポセカー氏の見解に呼応する形で、次のように述べる。

 「私たちは未だに、ソフトウェアを“ツールとして調達するもの”と捉えている。しかしこれからは、ソフトウェアを“協働のための手段”として調達する視点が必要だ。“ソフトウェアを買う”のではなく、“デジタルの同僚を雇う”という考え方が求められる」(アナンタクリシュナン氏)

 アナンタクリシュナン氏は、こうした“デジタルの同僚”には成果に基づいて報酬が支払われるべきだとし、「価値ベースの課金」という新たな価格モデルの必要性を説く。同氏は、そのために「価値ベースの課金」という新しい価格モデルが必要になると指摘する。

 そこでアナンタクリシュナン氏は、AIベンダーが提供するサービスで用いられている「トークンベースの課金」や「AIクレジット制度」が、価値の代替指標になっていると指摘する。トークンベースの課金は、AIツールやサービスの利用量をトークン単位で計測し、その使用量に応じて料金を課金する仕組みである。AIクレジット制度は、AIツールやサービスの使用量や生成内容に応じてクレジットを消費する仕組みだ。

 同氏は、こうした従量課金型の価格モデルが、企業がAIエージェントを雇って業務を担わせる成果ベースの価格モデルへの橋渡しになると述べる。

 AIツールやサービスの利用にかかるコストと、その利用によって得られるROI(投資対効果)を直接結び付ける仕組みを導入することもアナンタクリシュナン氏は推奨している。一定の成果に応じてボーナスを支払う「初期AIクレジット+成果報酬型」のハイブリッドモデルも検討の余地があると述べる。

 AIエージェントを業務プロセスに組み込んだ働き方が進む中で、ITリーダーが検討すべき課題は山積している。だが、AIエージェントを活用した業務を内製するか、外部サービスを利用するかにかかわらず、「価値ベースの課金」が実装される時代は到来する可能性がある。ITリーダーは、調達対象が「確定的な商品やサービス」から「確率的な成果をもたらす存在」へと変わった場面で、リスクとリターンのバランスがどう変化するのかを見極める必要がある。

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